最新号トピックス

2009.08.01

虐待相談 増加の一途に必要なのは

 全国児童相談所の子どもの虐待相談件数が統計にとられたのは90年が最初であり、1101件という数字である。以後、右肩上がりに増加を続け、08年度は4万2662件と過去最高を更新した。90年度の約39倍だ。  この増加を単純に子どもの虐待の増加と見ることはできないだろう。むしろ、90年当時の数字は、虐待の認知度が低く、親などから虐待される子どもが社会的にもネグレクト(無視・放置)された、いわば二重ネグレクトの虐待状態にあったことを意味するとも言える。89年の国連子どもの権利条約の成立など、子どもの人権への意識の高まりとともに、子どもの虐待防止の市民運動の広がりが、児童相談所をはじめ行政をも動かし、虐待される子どもが発見、救済されるようになった結果の件数増加という側面がある。  他方で、新しい貧困問題、多重債務や雇用不安などの生活不安、地域で孤立し、孤独な子育てに陥る子育て不安の広がりを背景にした子どもの虐待の増加という側面も見すごすことはできない。とくに、神奈川県、大阪府、東京都など大都市圏に虐待相談件数が多くなっている。  07年の「児童虐待防止法改正」により児童虐待のおそれがあると認められる場合の立入調査の強化がはかられた。これにより、児童相談所は、保護者に子どもを連れて出頭することを求め、これに応じないときは、住居に立入調査をすることができる。保護者が正当な理由なく立入調査を拒否したときは、児童相談所は、再度保護者に対し子どもを連れて出頭を求めることができる(再出頭要求)。これにも保護者が応じないときは、裁判所の許可状を得て、施錠なども強制的に外しても住居内に立ち入り(臨検)、子どもを捜索して子どもの安全を確認したり、保護することができる。厚労省のまとめによれば、新しい立入調査制度が施行された08年4月から09年3月までに出頭要求がなされたケースは28件。うち8件は保護者が出頭要求に応じ、在宅支援を継続し、応じなかった20件のうち1件は立入調査により乳児のミイラ化した遺体を発見した。立入調査をして子どもを一時保護したのは11件。そのうち、3件は、保護者が立入調査を拒否し、再出頭要求を実施。裁判所の許可状により臨検・捜索まで実施し、子どもを保護したのは2件となっている。その2件はいずれも子どもを就学させず、部屋は不潔な状態で周辺に異臭が漂うネグレクトの虐待ケースであるとされている。  虐待される子どもを発見、保護するための法整備は行なわれても、実際にそれを行なう児童相談所の現場は絶対的に人手不足のままである。しかも、虐待を発見して子どもを一時保護する措置をとっても、その子どもを受け容れる一時保護所や児童福祉施設自体が、とくに都市圏では満杯状態で、児童相談所のケースワーカーはたいへんな苦労をしている。  また、一時保護所や児童福祉施設も、幼児から思春期の子どもたちまで一人ひとりのニーズに合わせて個別的な対応をするために必要な専門性を持った職員は不足している。とくに、思春期で深い心の傷を負った子どもにとって、他人の視線を気にせず安心感と安全感を保障されるようなプライベートな空間を確保することが一時保護所などでは困難であるため、保護された施設に適応できず、心の傷を広げるような悲惨な状況もある。  子どもの虐待問題は、たんなる摘発、取締の発想から権力を発動しても何ら解決には至らない。一人ひとりの子どもが、その人らしく成長し生きていく権利を有することを認めあい、真に子どもを守り、子育て・家庭支援を含めて、子どもの育ちを社会的に支援する総合的な仕組みを創り上げていく必要がある。(弁護士・多田元)