最新号トピックス

2011.04.15

論説・森英俊(小児科医)

 本年3月の厚生労働省の調査で、自閉症や注意欠陥多動性障害(ADHD)などの「発達障害」があると診断された乳児に対して精神安定剤や睡眠薬などの「向精神薬」を処方している専門医が3割にのぼることが分かった。さらに小学校低学年まで含めると約5割、高校生まで含めると約7割も処方されているという。子どもを対象にした向精神薬の処方実態が調査されたのは、初めてのことだ。小児や思春期の子どもたちの心や身体の発達課程で大きな影響を及ぼすおそれがあるため、厚生労働省でも慎重な処方を求めている。  「発達障害」は元来、学校現場から概念が導入されたものであり、あきらかな疾患というより学校現場における症状群と考える学者もいる。とくにADHDなどは学校現場に適応できない子どもをラベリングするためにカテゴリー化され、特別支援教育もまた、そういう背景のなかで生まれてきた。たしかに「発達障害」や「自閉症スペクトラム」と呼ばれるカテゴリーに入る子どもの存在は以前から知られていた。しかし、それはけっして治療や矯正の対象ではなかった。  近年、不登校をする子どもは学校不適応であり、何らかの「発達障害」を持っているという専門家もいるが、では「発達障害」は治るのかという質問に明確な回答を出せる専門医は誰もいない。あくまでも学校という教育現場での安心できない状況で生まれた症状にすぎず、それを一時的に「向精神薬」で抑えても、本質的な解決にはならない。むしろ弊害のほうが大きいようなケースもある。  学校現場でアスペルガー症候群と呼ばれた当事者の一人は「『障害』ではなく、『才能』かもしれない」と述べている。学校教育という制度の枠に入らなくても、学校外のオルタナティブな教育や、家庭での自由な教育が選択できるようになれば、集団のなかで発揮できなかった能力は、個別に引き出していけるかもしれない。「障害」と社会から呼ばれることなく、一つの「才能」として、人生の困難さを生き抜いていけるのではないだろうか。  昨年から全国ネットワークが全国各地で実施した「不登校・ひきこもりと医療」についての研修会でも、当事者の人たちから向精神薬や抗不安薬、抗うつ剤などを複数投与されているが、このままでいいのかという不安の声を耳にする機会が多かった。基本的には、不登校・ひきこもりには医療の介入は不必要であり、十分な休息や家族の理解が大事であろう。子どもの苦しみや悲しみを傾聴し、共感しながら、ともに寄り添って生きていく姿勢があれば、子どもは親を信頼して十分成長できるはずだ。これが逆に、子どもの意思を無視して医療機関や矯正施設などに半ば強制的に入れられたりすると、親子の間に取り返しのつかない致命的な溝をつくってしまうので気をつけたいものだ。子どもにとっては、親は安心の最後の砦でもある。  子どもは、学校という社会の要請を受けた教育機関からの逸脱行為が許されない立場にある。わずかでも枠をはみ出すと問題視されてしまう。学校に通い続けながら理不尽な思いをさせられた子どもも多いだろう。学校でいじめ自殺をした子どもの数も少なくない。学校で薬を飲みながら症状の改善しない自分を否定し責め続けている子どももいるだろう。子どもに対する「向精神薬」の投与は子どもの自尊心を奪い、社会からの否定感を強めてしまうことが多い。まだ子どもへの「向精神薬」の影響は解明されていないこともあり、とくに専門医による多剤大量療法は控えるべきだと考える。親も本人も過剰に不安にならないで、安易に医療に依存しないことだ。 (小児科医)