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2009.03.01

書評『迷子の時代を生き抜くために』

 「いい学校に入り、いい会社に入りさえすれば安心だ」……、その神話は完全に崩壊した。崩壊したにもかかわらず、大学進学率は毎年のように増加し、この少子化のなか大学院の生徒数は29年連続で過去最高を記録(07年度統計)。超高学歴化はますます進んでいる。超高学歴化が進んでいる正体は「不安」だ。たしかに学歴は信じられないが、ほかに信じられるものもない。ましてや学校にさえ行かなかったらもっと不安。理想は、なるべく高い学歴と、なるべく多くの資格と、なるべく特色豊かな個性。自分を「商品」として、かぎりなく開発しなくてはならない。「不安」はそれを内発的に要求する。しかし、気がついたら、正体が見えない「生きづらさ」を誰もが感じている。  そんな時代を本書は「迷子の時代」だと指摘する。求心軸が「希望」から「不安」へ移った時代。不安感にスッポリと包まれて宙へと浮かされてしまい、あがけどあがけど無力感を感じる時代。  本書の発行日、集会で、児童精神科医・渡辺位さんは「不登校を近代化と生き物としての人間の闘いという地平から見るべき」だと語った。不安感・無力感・生きづらさの根っこは、その地平から解きほぐすしかないというメッセージだろう。本書の最初の目的は、その地平を透かして見せることにちがいない。  もう一つ、本書で注目すべき点は、不登校にとって選択肢とは何か、「不登校でも大丈夫」という考えは本当に不登校を肯定しているのか、など不登校運動のなかでも議論が未消化な部分にも触れた点だ。つまり、不登校「問題」の最前線がこの本の中にある、と言える。必然、さまざまな意見が出るだろう。議論を深めていきたい。  余談だが、沖縄音楽を代表する音楽家・喜納昌吉さんは、米軍基地問題など沖縄の被害に触れつつ、よく平和市民活動の姿勢を批判している。運動の内側にも厳しい眼を持つのは大変だが、それこそ大事なのだ、と常々、指摘している。不登校運動では、親、子ども、若者が、それぞれの実感をもとにつながり合い、運動のうねりが生まれてきた。だからこそ意見のちがいがあり議論が紛糾することもある。紛糾したとき、健全な議論が起こり、それがうねりとなっていくことこそ自立した運動だ。くり返してしまうが、本書は、多くの問題提起を内包している。あらゆる意見が出るだろう。しかしそのとき、運動に関わる人が、自立した眼でこの問題提起と向き合えるか。それが、これから先の不登校運動の試金石になるだろう、と私は感じている。(石井志昂) 書籍のお申し込み先 → 書籍お申し込みフォーム