最新号トピックス

2010.04.01

第5回 小西剛史「隣る人」

 高校受験を迎えた2人の中学生。前期試験の結果は残念ながら2人とも不合格でした。それぞれ小1と小3のときに光の子どもの家に来た2人は、登校中にランドセルを投げ捨ててしまったり、高学年とケンカをして道路にしゃがみ込んでしまったりということをくり返し、ほぼ毎日、登下校に職員が付き添うような状況でした。  そして学校へたどり着いたと思ったらそこでも落ち着かず、担任からの連絡を受け、これまたほぼ毎日のように授業参観状態の時期もありました。3年生の遠足や5年生の林間学校の際は学校側の要請で職員が同行しました。児童精神科医からは「典型的なADHDですね」とも。  そして中学校に入ってもなかなか落ち着かず、盗みやトラブルなどは収まりませんでした。しかし中学3年生になるにつれ、2人ともしだいに落ち着き、学友の影響もあってか受験生らしい生活を送っています。  毎日の学習を見ているとそれが当たり前の姿になってしまいますが、因数分解や関数などを教えながら、ふと昔のことを思い出すことがあります。「自分に手を引っ張られて泣きながら小学校まで行っていたような子が、生意気に数学で頭を悩ませている。あのとき、高校を目指すようになるなんて想像もできなかったのに……」と。  友だちと合格発表を見に行ったその日、帰宅後に閉ざされた部屋の扉越しに「どうだった?」と聞くと、沈んだ声で「ダメだった」と一言。彼なりの努力はしてきましたが、それを認められなかった挫折感、敗北感、疎外感。私自身もかつて経験した不合格したときのあの重たい雰囲気がよみがえりました。しかしあきらめたらそのまま終わるだけ、乗り越えたら強くなるチャンスと捉えて次の後期試験に向けてがんばるしかありません。「ラーメンでも食べに行くか!」。桜の咲きそうな春風のなか、サンルーフを開けて車でいっしょに出かけました。  「不合格はいま考えると残念だけど、時間が経ってふり返ってみた時に『あれは必要なことだったんだ、一度つまずいてよかったんだ』と思えれば前向きな人生になるんだ。そう思うためにはすぎたことにくよくよしないで、エイッて気持ちを切り替えて次に向けてがんばるしかないんだ、まー、高校1回落ちたくらいたいしたことねーよ、な」「うん、これから勉強もっと見て」「分かった。この1週間は本気でやれよ」「本気でやる」。  車中でこんな会話をしながらラーメン屋に着き、たらふく食べて『さぁ再出発!』。 ■光の子どもの家/1985年7月に設立された児童養護施設。現在36名が利用中。徹底して子どもに寄り添った養育方針が「隣る人」と呼ばれる新しい養育理念を生んだ。今年12月、「自立進学基金」を創設した。 ※2010年3月15日 Fonte掲載