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2010.02.02

第1回 小西剛史「隣る人」

 埼玉県にある児童養護施設で子どもたちとの生活を始めてあっというあいだに8年が過ぎようとしています。これまでの子どもたちとの関わりのなかで、まるで日々意図して何か強大な力に試されているような感覚のなか、目の前には小さな子どもたちがいる現実とのギャップ。自信過剰になったり自己嫌悪に陥ったり、なんとまあ感情の起伏を激しくしてくれるところだろうと、エキサイティングな人生を送らせていただいていることに感謝し、その感情をコントロールすることの難しさと大切さを大好きなビールとともに日々感じている毎日です。  「○○ちゃんが意地悪してくる」「なんとかしてよ」――子どもたちと生活しているとよく聞かれる訴えです。その子の性格や相手にもよるとは思いますが、訴えたのが思春期に入る前の子どもであれば、その子の一方的な主張を聞くことで、たいがいは大丈夫です。ただ思春期前後の子どもからの「いじめ」の訴えの場合は安易な対応はできません。中高生の女の子のそれは、とくに対応に悩むことが多いです。訴えがあればまだよいほうですが。  最近では、小学5年生から高校1年生までの女の子4~5人が、そのなかの一人に対して、いやがらせをするということがありました。「なんとかして」と訴えてきたのは、少し知的に遅れがある高校1年生の女の子。生活の場のなかでのことなので、何となくいがみ合っているのはわかっていましたが、その子の訴えを聞いた心理士が心配して私のところに相談に来ました。その子が攻撃対象になりやすいことは事実ですが、その子が多勢に加わって一人の子にいやがらせをすることもけっして少なくないことも事実ではあります。そこで、その子が暮らしている家へ行き、ひと通りの対応はしましたが、とりあえず気分を変えることが一番と思い、くだらない冗談などを言ってゲラゲラ笑い「じゃあまた、がんばれよ」と言って終わりにすると、彼女も少し前向きな表情を見せていました。  ただ、この一件をどう考えたらいいか、その後、心理士とビールを飲みながら深夜まで談義しました。  「魚の世界ですら、いじめがあるように、動物はもともと攻撃的な部分を持っていて、それは相手を攻撃することで自分の位置(存在)を保つためなのではないかな」などなど、極論も投げつつ議論し、でもそこに動物と人間とのちがいがあるならそれは「許すこと、与えること」などの情操を持ち、「共存しようとすることができるというところじゃないか」という結論にたどり着きました。すでに時間も遅くなり、かなり酔っていたので支離滅裂な談義はそこで終わりにしました。 ■光の子どもの家/1985年7月に設立された児童養護施設。現在36名が利用中。徹底して子どもに寄り添った養育方針が「隣る人」と呼ばれる新しい養育理念を生んだ。今年12月、「自立進学基金」を創設した。 ※2010年1月15日 Fonte掲載