最新号トピックス

2009.10.05

第12回 向谷地生良「日々発見」

◎「人とつながる」という欲求……

 人の目線が怖いと言っては自宅にひきこもり、ときおり、相談支援のソーシャルワーカーや関係機関に「どうせ、私なんか早く死んじまえばいいと考えてるんでしょ!」と泣きじゃくりながら電話をかけてきたA子さん(20代)。A子さんが訴えるつらさのなかにネットの掲示板の書き込みの問題がありました。その中身は、掲示板に私の知らないはずのプライバシーが暴露され、それをもて遊んだり、侮辱したりする内容が書き込まれているというものでした。「きっと、私の部屋に盗聴器が仕込まれているかもしれない」というA子さんの深刻な訴えから、関係者の多くは、それは大変だと心配し、盗聴器を探しだす業者に依頼し部屋の点検を依頼したり、警察に相談したりと大わらわでした。そんな対応に追われる関係者の一人からA子さんへの対応についてアドバイスを求められたとき、私はひと言、「あまり深刻にならないこと」と答えました。それは、長年にわたりA子さんのような困難をかかえる人たちと関わってくるなかで身につけた一種の“作法”のようなものです。それは、彼女らの巻き起こす幾多のエピソードやアクシデントには、一貫して「人とつながる」というガムシャラなまでの欲求があるからです。「人とつながる」ということは、けっしてロマンチックなことでも、情緒的なことでもなく、身体の求める「人とつながる」という感覚の欲求は、人から叱られることや苛立ちの対象となることによって最も充足されるというところに難しさがあります。その経験から、私はA子さんのかかえるつらさにも表向きの困難のメッセージを越えた意味を感じ取っていたのです。数日後、盗聴器も発見されず、一安心したA子さんとゆっくりと話す機会がありました。話題は、「ネットの世界の魅力」についてでした。A子さんが話すには、最初は怖いと思ったネットの世界も、書き込んだ掲示板の内容に、蟻が群がるように書き込みが殺到するさまに虜になったというのです。「おもしろいね。僕も今度、入ってみようかな」と言うとA子さんは「やめといたほうがいいよ」と意味あり気な笑いを無邪気にふりまきながら、しだいにネットの世界に渦巻く読者の素顔を話してくれました。そして、意を決したように、自分の「苦労の真相」を話しはじめたのです。結論を言うならば、じつは、A子さんのプライバシーにかかわる情報をネットの掲示板に書き込みをしていたのは、他でもなくA子さん自身であり、その書き込みの内容に読者が反応し、A子さんにバッシングを浴びせるさまをのぞいて楽しんでいたと言うのです。つまり、自作自演だったというのです。彼女はネットの掲示板と言う“えさ箱”に適当な情報を買い込み、ネットの読者がハイエナのように食いついてくる人のつながりに、文字通りはまっていたのです。そして、けなされれば、けなされるほど満足度が高いというのです。逆に考えると「人とのつながり」とは、それほどまでにしても必要不可欠なものなのだということができます。 プロフィール……(むかいやち・いくよし)。ソーシャルワーカー。84年に精神障がいを経験した当事者らともに社会福祉法人「浦河べてるの家」を、北海道浦河町に設立。著書に『安心して絶望できる人生』(NHK出版)など。 ※2008年10月1日、Fonte掲載