最新号トピックス

2009.09.21

第10回 向谷地生良「日々発見」

◎べてる式親離れ法

 前回は、今、べてるの当事者研究という活動の中で、一番旬な研究テーマが「親依存の研究」で、35年間、母親から2m以上離れたことがない経験を持った青年を中心に研究がはじまっていることを紹介しました。彼も今は無事に親離れを果たし、べてるの活動に参加しています。そのように、親はさまざまな事情から爆発やひきこもりを余儀なくされるわが子を可能なかぎり抱え込み、「終わりなき子育て」のなかで、疲弊していきます。その「親依存の研究」のなかで浮かび上がってきたのが、「親の子ども依存」です。それは、30歳を過ぎても生まれたばかりのわが子を、はじめて腕に抱いたときの感覚で“子育て”してしまい、とくに母親が、自分の苦労と子どもの苦労とがいっしょくたになり、抱え込みすぎが起こります。子どもも、赤ん坊のとき、母親の気配がなくなったときに不安になり、泣いて訴えたような行動パターンから抜け出せないまま大人としてのプライドとの狭間で孤立を深めていきます。そうして、家族全体に、自立への期待や欲求とともに依存という相反する葛藤が充満し蓄積していきます。「親の子ども依存」で厄介なのが、子どもの苦労の抱え込みのなかで、それが母親の“仕事化”していくことです。その結果、子どもの自立が母親の精神的な“失業”につながるのです。ですから、親に対するサポートは「子どものため」の人生から「自分のため」に生きる人生への転換を促す支援が中心になってきます。さらに浦河では、本人を「大人扱いする」ことを大原則に、苦労の主人公になるための支援をしていきます。チャンスは失敗をしたときです。親が頭を下げるのではなく、本人がそのことを受けとめ、大人として解決することを応援します。そこで、大事なのが仲間の存在です。親と居ることの安心から、仲間や人と居ることの安心へと「安心の基盤」を変えていく支援が大切になってきます。しかし、そこでいう安心の基盤とは、いつも楽しく、仲睦ましい人間関係である必要はありません。対立したり、悲しんだり、怒ったり、そして、認め合い、許しあえる起伏に富んだあたり前の繋がりが大事になってきます。浦河の苦労満載の多様な人の繋がりがそれを可能にしています。そのようにして、ゆっくりと癒着した親子関係の“はく離”を促し、新しい仲間との出会いのチャンスをつくり、次に住居を確保し自活に挑戦します。そして、離れて暮らすことによって親子の絆は、物理的な距離に反比例するように深まっていきます。 プロフィール……(むかいやち・いくよし)。ソーシャルワーカー。84年に精神障がいを経験した当事者らともに社会福祉法人「浦河べてるの家」を、北海道浦河町に設立。著書に『安心して絶望できる人生』(NHK出版)など。 ※2008年9月1日、Fonte掲載