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2009.09.14

第9回 向谷地生良「日々発見」

◎「依存」というより「共生」ゆえに親離れできない

 「べてるの家」の最大のイベントに「べてるまつり」があります。一年間の「べてるの家」の歩みの紹介と世界で唯一の「幻覚&妄想大会」が一番の目玉です。  この「べてるまつり」を目当てに、北海道でも有数の交通の不便地帯で過疎の街、浦河に3日間で延べ千人を越える人たちが全国各地からやってきます。ふだんは人通りの少ない商店街も、その日だけは、多くの人たちが店の前を歩き、旅館やホテルはどこも満杯になります。  今年の「幻覚&妄想大会」のグランプリ受賞者は、何と35年間母親と2メートル以上離れたことがないという未確認世界記録を打ち立てた青年が受賞しました。  受賞の場面に居合わせたお母さんのコメントによると「心理的には1メートルくらいの距離で、生まれて子どもを抱いたときの感覚を35年間保ってきたような感じ」と言っていました。もちろん、彼は、浦河に来てから親離れに成功し、今は、グループホームで、仲間と暮らしています。浦河には、もう一人、親離れに苦労している青年がいてグランプリをとった青年といっしょに「親離れの研究」に着手することになりました。  先日、その二人が「当事者研究」の場でいっしょに親依存の生々しい体験を報告してくれました。まずは、二人にとって母親とは、自分の生存の可否を決定するほどの大きな存在だということでした。つまり、依存というよりも、かぎりなく生物学的な「共生」に近い感覚です。生物学的な共生とは、相手が居なくては、自分の生命が絶たれる状態を意味します。私たちは、共生をともすれば、助け合いや支え合いのイメージで語りますが、生物学では、もっと切実な概念なのです。だから、彼らは、離れられないのです。そして事実、離れようとすると、不安感や焦燥感におそわれたり、身体に反応が起きるといいます。  一人の青年は、心臓を掴まれるような痛みが胸に走り、もう一人はパニックになります。それを防ぐために、二人は、母親のトイレや入浴にも「何分で戻ってくるの?」と確認し、言われたとおりの時間で帰ってくるか時計の時間と睨めっこをしながら待つといいます。ですから、買物も、外出もいつもいっしょです。家に帰ると「僕の話を聴いてくれる?」と言って母親を目の前に置き、話し続けます。自分より早く寝ることも受けいれられず、母親が自分の視界から消えることを極端に恐怖します。  このようなひきこもりと一体になった母親依存は、男性に見受けられる親依存のパターンで、以前はあまり見受けられなかったように思います。たまたまかもしれませんが、共通しているのが、親の社会的な地位や経済力の高さです。いろいろなトラブルも起きるので、尻拭いするのにも、経済力がものを言います。働くことが難しくても、家族が、代わって扶養する能力も高いぶん、母親の子育ても終わりなく続くことになるのです。 プロフィール……(むかいやち・いくよし)。ソーシャルワーカー。84年に精神障がいを経験した当事者らともに社会福祉法人「浦河べてるの家」を、北海道浦河町に設立。著書に『安心して絶望できる人生』(NHK出版)など。 ※2008年8月15日、Fonte掲載