最新号トピックス

2009.08.03

第3回 向谷地生良「日々発見」

◎“強い”は脆いから、“弱さ”の力を

 べてるの家には、統合失調症などさまざまな障害を持った“名うての苦労人”たちが集まり、その人たちがいろいろな事業を展開しています。一番有名なのが、日高昆布の普及と販路の拡大を目指して25年前に始まった日高昆布の産地直送です。ほかにべてる関連グッズと呼ばれるTシャツやアクセサリー類、別会社を立ち上げての介護用品のレンタルや販売、出版社とタイアップしてみんなの体験をベースにした本やDVDなどの出版にも力を入れています。「朝にならないと誰が出勤してくるかわからない会社(職場)」であることは、今も昔もかわりません。ぶつかり合いや爆発は日常茶飯事で、誰が見ても「倒産確実」で「行き詰まることまちがいなし」の日々を重ねながら、「べてるの家」のまわりには、当事者が立ち上げたNPOや一人社長型の“会社”や団体が多くあります。べてるの歩みは、じつは“起業”の歩みと言うことができます。この起業精神をはじめとする力の源泉は、浦河町(人口一万五千人)という過疎化が年々深刻化し、働く場にも恵まれず、社会的な支援体制にも乏しい地域全体を覆う「弱さ」に秘密があると思っています。浦河では、誰もが等しくいわゆる「負け組」です。縮小する地域経済や人口減少のなかで、多くの人が地域の将来に不安を感じながら暮らしています。  べてるのキャッチフレーズのなかに「弱さの情報公開」があります。それは、一人ひとりが自分の抱えている「弱さ」を恥じることなく寄せ合ったとき、人はつながり、ともに助け合いがはじまるという体験に基づいた理念です。昨今、相談支援の領域や教育の場でも「強さ」に着目することが大切にされています。自分や自分が所属する場の持っている「強さ」を共有し合い、それをアピールし、強めていくことが問題解決につながったり、この競争社会を生き抜いていくための原動力になったりするというこのコンセプトは、「エンパワメント・アプローチ」として多くの場面で用いられています。私が所属する大学でも、コンサルタントを招いたワークショップの中心テーマが、この「強さ」を発見し、共有して大学の個性として世間にアピールしていこうというものでした。  私がべてるの家の歩みを通じて学んできたのは、純粋で混じりけのない「強さ」というのは、あり得ず、あったとしても、それは極めて脆いということです。それは、糸と同じです。一本、一本の糸は本当に繊細ですぐに切れてしまいますが、それを縒ったときに、強い糸になります。私は、本当の強さとは、弱さと弱さが共に束ねられたときにこそ、生まれるものだと思っています。黒人解放運動から生まれた「エンパワメント」という言葉も、じつは、差別や貧困を生き抜いた人たちの「弱さの力」を背景にした強さだと私は思っています。「弱さ」を排除した強さや、弱さを克服しようとする「強さ」は、実は、見た目の強さ以上にかぎりなく「脆い」のだということを私たちは経験してきました。べてるが大切にしてきたのは”弱さ”に誇りを持ち、希望を見いだす生き方なのです。 プロフィール……(むかいやち・いくよし)。ソーシャルワーカー。84年に精神障がいを経験した当事者らともに社会福祉法人「浦河べてるの家」を、北海道浦河町に設立。著書に『安心して絶望できる人生』(NHK出版)など。 ※2008年5月15日、Fonte掲載