最新号トピックス

2009.07.20

第1回 向谷地生良「日々発見」

今週から、精神障害者の活動拠点「浦河べてるの家」のソーシャルワーカー・向谷地生良さんのコラムを掲載する。ただし第1回目のみ、Fonteに掲載された講演録を掲載。

◎弱さ・悪さを恥じないで

 精神病の方は誰よりも安心を求めながら、誰よりも安心と遠い生活にはまり、まわりとの関係が切れてしまいます。どうしたら地域との関係を取り戻せるかをテーマに私はスタートしました。でも、最初から精神病の方を理解することができませんでした。一番典型的なのが、早坂潔さんでした。日常的にからだが固まったり、ご飯を食べなくなったり、暴れたり、踊り出したり、見ていてイライラしたし、理解できずに苦労しました。発作を見るたびに、自分が失敗している気持ちになりました。ほかのメンバーも厳しい現実に直面する人ばかりで、私自身もつらかったです。  そのさまざまな経験を通じて、現実に立ち向かう主体は私ではなくて、いま、悩んでいるこの人たち自身だと気づきました。障害や病気を持った人たちを「守る」「治療する」「援助する」という名のもとに、まわりの人が現実に立ちはだかり、保護し、管理し、地域から囲っている現実があります。私が解決するのではなく、実際に困っている人といっしょに、現実へ飛びこもうと思ったのです。そして、べてるの家のメンバーは、地域の人たちに、堂々と病気のことを言って、堂々と失敗して、堂々と謝ってきました。迷惑もかけましたが、そのことは誇れます。そして、困っている当事者が声を挙げることで、差別偏見をされるばかりでなく、いっしょに歩む人も出てきました。  さらに、いま起きているつらさを問題だととらえず、可能性と考えることでも、状況は変わりました。潔さんは、具合が悪くなりますが、それを人に伝えることができます。その言葉や態度が人を引きつけます。そう考えると潔さんが立派に立ち直って、テキパキしなくても、そのままで大切な意味を持っています。  病気であることは隠すことではないと思っています。私も職場では人間関係に悩まされます。しかし、私以上に悩んで、病気になるほど悩んできた人たちの経験は参考になりました。精神医療では薬が患者さんを助けるという錯覚があります。しかし、病気を経験した人は、人として自分の病気を悩み、将来を案じ、可能性に絶望し、人間として悩むのです。その経験は隠したり、閉ざしたりする情報ではありません。病気をたまたま経験していない私たちに有用な情報だと思っています。  親は、育児に行きづまり、困って、ときには虐待することもあります。そのとき、まわりから責められ、犯罪者のように扱われてしまいます。しかし、どうか、堂々と自分の困難とニーズをアピールしてください。  不登校の子どもも相談に来ます。私たちは同じような経験をした人たちと出会う場をつくり、学校に行かない選択は「けっして、君自身の将来を閉ざし、不幸になったりはしない」という情報を伝えています。  べてるの家は、一人ひとりが具体的に弱くて、問題や苦労があったから、広がっていきました。ですから、自分の弱さや条件の悪さを恥じないでください。 プロフィール……(むかいやち・いくよし)。ソーシャルワーカー。84年に精神障がいを経験した当事者らともに社会福祉法人「浦河べてるの家」を、北海道浦河町に設立。著書に『安心して絶望できる人生』(NHK出版)など。 ※2002年10月15日、不登校新聞掲載