最新号トピックス

2008.10.06

第11回「子どもの現在」 保坂展人

 早いものでこの連載も残り2回となった。子どもをめぐる状況は、刻々と変わりつつある。小学生が誘拐されて殺されたり、犯罪の対象として狙われるという状況に親の危機感もつのっている。  12月にイタリア・フランスに行く機会があった。両国とも「学校」を一歩出たら安全は親・保護者の責任とされていて、親か親の代理人が学校へ送迎するのが当然になっていた。 「外で子どもをひとりにしない」ということを日本でも考えたほうがいいのかと、旅をしながら、ブログ(『保坂展人のどこどこ日記』)に書き込んだ。すると何人かの方から「保坂氏まで管理にくみするのか」と批判をいただいた。たしかに「外でひとりにしない」となると寄り道もできなくなり、遊びも制約される。学校には行かずにフリースクールに通う人にも影響が出るだろう。  一方には警察力を増強して地域の父母が「見張り番」に立ち、足らない所は監視カメラで補うという話が進行している。私は、これでは子どもが被害者となる事件や犯罪は防止できないと感じる。また「集団登下校」を選択する学校もあるが、今度は交通事故の集団被害に遭う確率が高くなる。現に、年に何度かは集団登校の列に車が突っ込む事故が起きている。  あれこれ考えると、登下校の距離や交通状況によってスクールバスを導入するのが、ベストとは言えないが、ひとつの方法ではないかとも思う。ただ、文部科学省は予算がないので地方自治体にまかせたいと言っていて、消極的である。  池田小学校事件や寝屋川事件など「学校を襲う」加害者となった人たちは、競争社会・学校体験で切り捨てられ、人格を否定されたという「被害感」を持っていて、事件の動機は「学校への復讐」であるというケースも見受けられる。究極の安全策は、こうした「加害者」を育てないことにある。ところが、ここ4~5年、学校現場で進んでいるのは「学力・偏差値競争主義」の復活であり、「総合的学習」を導入した以前の文部省の「新・学力観」路線の全面否定の道である。  少数のエリートを金をかけて育て、多数の労働者予備軍は最低限の知識・技術で十分という割切が、経済界の要望である。これまでの日本は、どの階層の子も一度地域の公立校でいっしょになったが、金持ちの子・持てる階層の子は、幼児から「エリート校」に通うから、その他大勢の子と知り合うこともないし、付き合わない。  じつは、この10年近く「犯罪」のことを考え、分析しているが、欧米に比べて格段に日本社会が安全だったのは、「教育の機会均等」「地域の子は一度は知り合いになる」ことが、根底にあった。公立学校の基盤は、今後は「自由競争」で崩れていき、日本は階層社会に突き進むとすれば、「犯罪」はかならず多発する。  金持ち階層は、ゲートに囲われガードマンがチェックする安全地帯をつくり出し、外出時には護衛付きで出るというような社会が待っている。社会的寛容さは急速に失われるので「不登校という生き方」をありのままに認め支援していこうというフレームも揺さぶられ、時計の針を乱暴に戻すような攻撃も起きてくる。その前兆が、「不登校半減政策」などにすでにかいま見えている。政治の場で、子どもの安全を論議することが大きなテーマになるだろうが、感情に押し流されることなく、どうしたらいいのかを考えていきたい。 ※2006年1月15日 Fonte掲載 ■著者プロフィール (ほさか・のぶと)1955年生まれ。中学時代、創刊した新聞が校則違反とされ、内申書に記載された「政治・社会運動」を理由に、高校は不合格。16歳から「内申書裁判」を起こした。80年代より、学校問題のルポを次々と発表、教育ジャーナリストとして活躍。市民運動にも関わってきた。96年秋の総選挙で社民党東京比例区で当選。議員として追及したテーマは、学校・子どもの問題をはじめ、平和・環境問題、年金問題など多岐にわたる。「児童虐待防止法」の成立、チャイルドラインの実現にも奔走。2003年、総選挙で破れるも、現在、ジャーナリストとして活躍中。著書に『先生、涙をください!』(集英社)、『学校に行きたくない』(集英社)、『元気印青春論』(大和出版)、『いじめの光景』(集英社文庫)、『学校を救え!』(ジャパンタイムズ社)など多数。