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2008.09.29

第10回「子どもの現在」 保坂展人

 今どき、政治家にとって人気が出る政策はかぎられている。  一昔前は、「道路・橋・トンネル」などの公共事業で予算をバラまいたり、「文化会館」「コンサートホール」などの“箱もの”を造って票田を耕したものだが、小泉政権の長期化と、この夏の選挙で、その道は狭く閉ざされつつある。  すると「少年法をもっと厳しくします」「処罰年齢を下げます」と少年犯罪への厳罰化が加速されてくる。これは、どういうわけだろうか。  2000年6月の総選挙を終えた自民党の先生方が「地元で『少年法だけは改正したい。こんなに加害者に甘い少年法ではダメだ』と訴えると、拍手がすごくてね。『それだけはしっかりやってくれ』と激励された」と語っていた。その背景には神戸で起きたサカキバラ事件や、西鉄バスジャック事件などがあった。  そして、選挙後の国会で少年法改正は審議され、成立した。刑事処分可能な年齢が16歳から14歳に引き下げられ、殺人事件など重大事件では原則として検察官送致が行なわれるようになった。  今年、国会に少年法改正案が再度提出された。03年長崎市の“駿ちゃん事件”や、昨年の佐世保事件の衝撃が背景にあると言われている。いったい、どんな内容になっているのかを聞いて、驚いてしまった。  14歳未満の触法少年は、児童相談所に身を置いて調査をされてきた。今度の少年法改正案では、警察に「押収・捜索・検証・鑑定委託」などの強制捜査権を与えることとし、大人同様の捜査ができるようになる。さらに「ぐ犯」の疑いのある少年には、警察官が少年や両親を呼び出したり、調査したりすることができるようにする。  ぐ犯とは何か。ぐ犯とは犯罪を犯したのではなく、「保護者の監督に服しないなど、将来、法を犯す行為をするおそれのある少年」と言われている。「ぐ犯の疑い」と言えば、あらゆる少年が対象となってもおかしくない。  日弁連の資料によれば、喫煙や深夜徘徊などで補導された少年は130万人(03年度)いる。10歳~19歳の人口が1311万人であるから、10人に1人がすでに警察に声をかけられ補導されている現状がある。  さらに、あらゆる子ども・若者が「ぐ犯の疑い」で呼び出されたり、調査されたりすることになっていいのだろうか。佐世保事件がそうだったように、14歳以下の少年は少年院に送らずに児童自立支援施設に送致される。ところが今回の少年法改正では、この年齢制限を撤廃し、14歳以下の小・中学生も少年院に入れることができるようになっている。  少年犯罪は年々増加し、凶悪化している――というのが、マスコミや多くの人の認識だが、けっしてそうではない。少年による殺人事件のピークは戦後の混乱期であり、近年やや増加しているものの当時の半分以下である。諸外国と比べて、日本は少年犯罪に対して、うまく対応している国なのだ。少年が重大な犯罪を犯しても、反省してその罪を自覚して、立派に社会復帰して犯罪とは縁のない人生を送るケースが多かったというのが、海外からむしろ注目されているほどだ。  政治の議論が、子どもの毎日に直結する。少年法の議論は来年の国会で要注意なのだ。 ※2005年12月1日 Fonte掲載 ■著者プロフィール (ほさか・のぶと)1955年生まれ。中学時代、創刊した新聞が校則違反とされ、内申書に記載された「政治・社会運動」を理由に、高校は不合格。16歳から「内申書裁判」を起こした。80年代より、学校問題のルポを次々と発表、教育ジャーナリストとして活躍。市民運動にも関わってきた。96年秋の総選挙で社民党東京比例区で当選。議員として追及したテーマは、学校・子どもの問題をはじめ、平和・環境問題、年金問題など多岐にわたる。「児童虐待防止法」の成立、チャイルドラインの実現にも奔走。2003年、総選挙で破れるも、現在、ジャーナリストとして活躍中。著書に『先生、涙をください!』(集英社)、『学校に行きたくない』(集英社)、『元気印青春論』(大和出版)、『いじめの光景』(集英社文庫)、『学校を救え!』(ジャパンタイムズ社)など多数。