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2008.08.18

第4回「子どもの現在」 保坂展人

 15歳の夏、私は家を出た。  神田にあった小さな不動産屋に入り、「いちばん、家賃の安い部屋はありませんか」と聞いた。1971年の夏、「4畳半で6000円の中野の部屋」が一番安かった。「日当たりがよくないようだけどね」と言われたが、「そこに決めます」と二つ返事で契約した。  15歳の春、私は内申書に「学校批判を続ける問題児」であると書かれて、全日制の高校5つを不合格になった。とりあえず、新宿高校(定時制)にはどうにか合格した。夜の学校は、出会いと発見の連続だった。地方から上京して、10代で独り暮らししているクラスメイトばかりだった。コックさん、新聞配達、大工、トラック運転手と仕事もさまざまで、学校が終わると夜遅くまで新宿の喫茶店で語り合った。  親元にいた私は、生ぬるい日常から訣別したい、友だちがそうしているように自活したい、そんな衝動のままに部屋を借りたのだった。自活を始めてから数日後、友人が訪ねてきて「この部屋は昼でも真っ暗で、体によくないよ」と言われた。窓が大家さんの建物と密着していて、真昼でも裸電球を灯さないと何も見えないほどの暗さだったのだ。そう言われてみて、初めて気がつくほど、私は自分の根城を持ったことに有頂天になっていた。  17歳で私は、新宿高校定時制を中退した。  高校はおおらかな校風で、学校に小屋を建てて寝泊まりしてみたり、文化祭でロックバンドを招いたりと、自由に生徒会活動を満喫した。事情があって、私は自らの意志で高校を辞めた。  授業はほとんど受けていなかったし、学校を離れれば好きなことが自由自在にできるのかと思ったら、強烈な落ち込みに襲われた。なんとも言えない不安と疎外感が日常を息苦しいものにした。たとえ授業を聞いていなくても、枠から外れていようとも、やっぱり17歳の私は「学校」という組織に所属しながら「自由」を味わっていた。  自分を縛るものが何もなく、強制するものや、きまりもすべて消え「完全な自由」になったのかと思ったら、そうではなかった。無性に人恋しくなった。学校のメリットって、友だちと約束しなくても会えるということにあったんだな――そんな素朴なことにも気がついた。アパートにこもって本を読んでいるかぎり、誰とも会わないで1日が過ぎる。  バイトで食いつなぎ、金がたまると出会いを求めて旅に出た。1977年、今から28年前に、21歳の私は荷物を両手に沖縄に向かった。島から島を訪ねて、最後に出会ったのがコザの街にいた喜納昌吉さん(ミュージシャン・現参議院議員)だった。  当時、喜納さんがやっていたコザのライブハウス『ミカド』では、亡くなった作家の中上健次さんのインタビューが続いていた。(週刊『プレーボーイ』に掲載)ようやく午前1時すぎに喜納さんは私の前に姿を表した。  タカのような鋭い目と、相手を共振させる深い笑い。私たちの対話はスパークした。  この日は、朝の6時まで話して、喜納さんの家に泊まり、翌日も、そのまた翌日も、さらにまた延々と1週間ほど、寝ている時間以外の多くを費やして語り合った。  1978年、思わぬ仕事が転がりこんできた。当時は硬派雑誌だった『宝島』に100ページの特集で「喜納昌吉の世界」を私が書くことになった。どこへ行くとも決めずに沖縄に行き、宮古島へ、大阪へと数カ月かけて動いたことをノンフィクションにした。無我夢中で書いた雑誌は書店にならび、多くの若者たちにメッセージを放った。  やがて、私は学校現場を歩くジャーナリストになった。たくさんの若者たちと語り合うことを通して「元気印」という言葉が流行語になるほど、「いじめ」「校内暴力」「校則」などのレポートを書き、次々と本にした。  転がり続けて、まもなく半世紀を生きたことになる。今を生きる若い人たちへ、既成の生き方を拒んで、いささか変わった生き方をしてきた元少年から見た「学校」を、しばらくのあいだ、書き続けていきたい。 ※2005年8月15日 Fonte掲載 ■著者プロフィール (ほさか・のぶと)1955年生まれ。中学時代、創刊した新聞が校則違反とされ、内申書に記載された「政治・社会運動」を理由に、高校は不合格。16歳から「内申書裁判」を起こした。80年代より、学校問題のルポを次々と発表、教育ジャーナリストとして活躍。市民運動にも関わってきた。96年秋の総選挙で社民党東京比例区で当選。議員として追及したテーマは、学校・子どもの問題をはじめ、平和・環境問題、年金問題など多岐にわたる。「児童虐待防止法」の成立、チャイルドラインの実現にも奔走。2003年、総選挙で破れるも、現在、ジャーナリストとして活躍中。著書に『先生、涙をください!』(集英社)、『学校に行きたくない』(集英社)、『元気印青春論』(大和出版)、『いじめの光景』(集英社文庫)、『学校を救え!』(ジャパンタイムズ社)など多数。