最新号トピックス

2008.08.11

第3回「子どもの現在」 保坂展人

 長崎県佐世保市の女子小学生の同級生殺人事件から1年がたった。昨年7月下旬、私は汗をぬぐいながら坂の多い佐世保の街を歩いていた。事件の背景をじっくり考えてみたかったからだ。  問題は「子どもの心」にあるのだろうか。大人の想定外の事件が起きると、「心の教育」が必要だという単純な結論になる。2年前には長崎市で少年によって幼い子どもが転落死させられるという事件が起きている。まさに「心の教育」を全県的に広げようとしていた矢先に佐世保の事件が起きたのだった。  小・中学校の道徳の時間を使って「生命の大切さ」を教師が訓示し、作文を書かせるなどの「対策」は、はたして子どもたちの「心」に届いているのかどうか。昨年の10月に長崎県五島市で、この道徳の時間に「苦しいときに笑って生きるのはすばらしい」と作文に書いておきながら、翌日に首吊り自殺した11歳の女子小学生がいた。 「実は、異常事態は続いているんですよ」と電話で語ってくれた佐世保のAさんから新聞記事の切り抜きが送られてきた。ほんの4~5枚の記事だが、ちょっとショックだった。  6月8日、長崎市内の中学3年生の女子が、タオルにくるんだ包丁を教室内で同級生にちらつかせていたと「銃刀法違反容疑」で長崎署は書類送検するという記事。同17日は、佐世保の隣町の北松佐々町の5年生の教室で、担任教師(40歳)が長縄跳びで首を吊って死亡していたのが発見され衝撃が拡がった。さらに、29日には中学1年生の男子が自宅で小学校6年生の妹をバットで殴り重傷を負わせるという悲劇も発生した。万引きの件で教頭・担任から指導され、母親も呼び出されて伝えられた直後に起きた事件だった。  ちょうど佐世保事件から1年を受けて「長崎っ子の心を見つめる」教育週間を前にした、この「異常事態」。教室で「生命の大切さ」を確かめあうという目的を嘲笑うように生命が失われ、傷つけられていく。  8月12日、事件から1年数カ月を迎えた佐世保で、内田良子さんと私、そして地元の親や教師も加わってシンポジウムが開かれる(夕方6時半より佐世保駅前アルカスにて)。「心の教育」では届かない子どもたちの「今」と、私たちが向き合えるかどうか。じっくりと話し合ってみたい。 ※2005年8月1日 Fonte掲載 ■著者プロフィール (ほさか・のぶと)1955年生まれ。中学時代、創刊した新聞が校則違反とされ、内申書に記載された「政治・社会運動」を理由に、高校は不合格。16歳から「内申書裁判」を起こした。80年代より、学校問題のルポを次々と発表、教育ジャーナリストとして活躍。市民運動にも関わってきた。96年秋の総選挙で社民党東京比例区で当選。議員として追及したテーマは、学校・子どもの問題をはじめ、平和・環境問題、年金問題など多岐にわたる。「児童虐待防止法」の成立、チャイルドラインの実現にも奔走。2003年、総選挙で破れるも、現在、ジャーナリストとして活躍中。著書に『先生、涙をください!』(集英社)、『学校に行きたくない』(集英社)、『元気印青春論』(大和出版)、『いじめの光景』(集英社文庫)、『学校を救え!』(ジャパンタイムズ社)など多数。