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2008.07.14

第11回「親の気持ち 子の思い」 青木悦

 年末・年始、びっくりするような事件が相次いだ。前号に書いた虐待事件も、あいかわらずだが、2007年は「バラバラ」という言葉で明けたともいえる。とくにびっくりした事件は二つとも東京・渋谷で起きた。  歯科医の次男が妹を殺し、遺体をバラバラにしたという。兄妹ゲンカの果てとか、取りざたされているが、まだよくわからない。  去年末から渋谷区の古い家の庭先や新宿区の路上で男性の胴体や下半身が発見されて大騒ぎになっていた。年明けてからその男性の妻が逮捕された。渋谷区という「家賃の高い」マンションに住んでいた、高学歴の夫婦だったということで、マスコミは「セレブ妻の殺人」などといった。  前者は「恵まれた家庭の子どもがなぜ?」と言われ、後者は「エリート夫婦のあいだに何があったか?」などと騒がれている。私は今のこの国のマスコミが安易に使う「エリート」「セレブ」「恵まれた」などの意味がよくわからない。「セレブ」なんて、使い方もわからない。  これらの事件の共通項は「渋谷」「バラバラ」「エリート家族」だと、あるテレビ局のコメンテーターが語っていて、みていた私の身内は「そんなこと分析されなくても見てりゃわかるよ」と笑っていた。私は笑う気になれなかった。共通項はもっともっと深いところにあるのに、そこにはいつも目をつぶって、こんな表面的な「分析」に終始するから、いつもいつもこんなだから、私たちの国は真の教育の問題を考えられないよ――と思った。そのなれの果てが教育再生会議だ、ともつぶやいた。  渋谷区内で起きた2つの事件の、今のところわかっている加害者2人、被害者2人、計4人の共通項は「いい学校」という点にこそある。4人とも小学校から「いい子」で、歯科医の被害者になった妹さんは「いい子」から降りようとしていたらしいが、入った小学校は「有名小学校」と報じられている。  「エリート夫婦」のほうは、今はどうだったのか知るよしもないが、どちらも地方の名門(私に言わせれば「受験名門」)高校を出て、妻は典型的なお嬢様大学、夫はその道ではトップクラスと言われる、たいそうな学部を出ている。  この事件の加害者たちの共通項は、幼いときからずっと、非常に狭い価値観の中で生かされたこと、その中で生き残るには「勝つか負けるか」この二者択一しかなかったということ。そしておそらくは学校や親の狭い価値観にかぎりなく適応して生きてきたのだろう。  子どもたちを幼いころからこんなふうに狭い価値観に放りこむ“教育”こそが問題なのである。自分は歯科医に向いていないと考えることができて、それを主張することができて、結婚したけれど「合わなかったわ」と、そのことを公言して、また新たに生きる知恵を身につけることが“教育”ではなかったのか。  30年ほど前からこの国の“教育”はまちがった。学校をブランドにしたから、まちがった。それを「再生」するといって、反省のないまま、さらに強化しようとしている。 ※Fonte2007年2月1日号掲載