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2008.06.02

第5回「親の気持ち 子の思い」 青木悦

講演で学校に呼ばれることが多い。「主催者」がPTAであることも、教員であることも、校長会であることもある。私の立場の「いいかげんさ」を示していると思う。 どこでもこのごろよく「朝ご飯を食べてこない子がいる」「朝ご飯を食べている子と食べていない子のあいだには学力の差が出る」などのあいさつが、主催者側からある。あるいは「食事の重要さが叫ばれる会」などのことばもある。 そういえばここ2、3年、教育の集まりで「食育」ということばを耳にする。2005年6月の国会で成立し、7月から施行された「食育基本法」がその元になっていると思われるが、この基本法はその目的、成立背景などの捉え方に重大な問題を含んでいると、私は思う。 この基本法の元になっている食育推進会議の会長は、当時の小泉総理大臣である。委員には当時の大臣がズラっと並ぶ。検討会の委員にはJA、チェーンストア協会、PTA全国協議会の人たちもいる。 この法律の目的は、「国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性を育むことができるよう、食育を総合的かつ計画的に推進すること」である。食育とは「生きる上での基本であって、知育、徳育、体育の基礎となるべきもの」。そして、この法律がつくられた背景として「【1】食を大切にする心の欠如……【5】食の安全上の問題の発生【6】食の海外への依存【7】伝統ある食文化の喪失」とある。読んですぐ気づくことは、健全な心身、豊かな人間性、知育・徳育・体育、心の欠如、伝統などのことばが多いこと。それは教育基本法の「改正」案と共通するということである。 大きな反対運動も起きないまま、奇妙にひっそりと成立・施行されたこの食育基本法は、一見正しいことを言っているように見えるから、なおさらこわい。事実、学校現場では前述のように、朝ご飯を食べる食べないが云々され、食べたほうが成績が上がるなどと言われていたりする。たしかに自宅で「満足に」食事を摂れない子どもたちもいる。 以前のように、お金がないという貧しさゆえに食べられない子もいるけれど、いまはむしろ、お金を稼ぐために忙しい親たちからポテトチップスのみ与えられる子や、ゲームに夢中で、ゲーム機の前で食べられるインスタント食品のみ食べるという子もいる。また親から何もしてもらえず、インスタントラーメンを固まりのままかじっていたという子のことが報道されたこともあった。 しかし、これらは全部に広がっているわけではない。そういう苦しい子どもには、さまざまなキメ細やかな対応が必要だということだ。困るのは、そういう部分をとらえて、すべてを「いまの親は……」あるいは「いまの母親は……」とくくってしまうことである。 片方ではわが子の食べ物に不安で、毎日栄養を考えてがんばりすぎて、疲れ果てている女性も多いのに、すべての教育問題の原因が「朝ご飯を食べない」ことにあるかのように語ってしまうこと。国家が「基本法をいじくる時」、それはとてもこわい時代だと、私は思う。 ※Fonte2006年11月1日号掲載