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2008.05.13

第2回「親の気持ち 子の思い」 青木悦

私には今年29歳になった一人息子がいる。小、中、高、大と、とことん勉強嫌いで親を悩ませ、バイクが好きで親を不安がらせた。しかし、理学療法士になりたいといって、25歳から急に勉強をはじめた。いま、専門学校の4年生。30近くなって、まだ学生の身だ。 この息子が中学校1年生のときに大変な反抗期で、朝から母親である私をにらみつけ、あいさつはおろか、1日中ほとんど口を聞かなかった。何を言っても何を聞いても返ってくる言葉は「別にー」「だってー」「うっせえなー」だけ。 そんな彼がある日、青い顔をして、目をひきつらせ、私のほうにまっすぐ歩いてきた。バスケットボールをやっていて、身長はすでに私を越していた彼に、私は「殴られる」と直感した。まったく子どもを信用していないのである。今日は夫もいないし、あんな大きな図体で殴られたらたまらないと思った私は、息子が近づいてきたとき、ちょっと横に逃げた。息子は殴らなかった。そして、私の横をすり抜けるとき、一言、低い声で言った。 「友だち、できねぇー」 別の街から引っ越してきて入学した中学校だった。転校してきたのと同じようなもので、友人関係はけっこう大変だろうなと思っていたが、何も言ってこないので放っておいたのだ。 私はびっくりした。ろくに口も聞かない息子がいま、ホンネを言った。あれは「助けてくれ」と言っているのかもしれない。なんとか答えてやりたいと思った。行ってしまおうとする息子を後ろからつかまえ、とりあえず食卓のイスに座らせた。何か言ってやらなければいけないと思ったが、焦れば焦るほど言葉が出てこない。 自分に言い聞かせた。「なりふり構うな」「正しい答えなんてわかるはずがない」「まちがっていようともなかろうとも、いま、私が思う正直なことを言うしかない」そう思うと、自然な言葉が出てきた。 「あのねぇ、本当の友だちって、そばにいるだけで安心できて、何でもしゃべれる人のことだと思う。そんな友だちは生涯のあいだに一人か二人見つかればいいほうなんだ。あなたにもいつかみつかるよ……」 息子は「ふーん」と言っただけで行ってしまった。私の話は通じなかったと思った。しかし数年後、20歳を越してから彼は言った。「実はあのころ、僕は毎日1人で弁当を食ってた。毎日弁当を1人で食っている自分を、きらいになりかけていた。そしたらあんなふうに言ってくれて、ちょっとラクになれた。そうか、友だちはいつか見つかる。だったらいま、ひとりでもいいじゃないかと……」 そう、一人のときもあっていいはずだ。いつもいつも友だちに囲まれているなんて、そんなはずないのだ。自分の子ども時代を考えても、一人のときはいっぱいあった。 いま、なぜ友だちのいる子どもは「いい子」でいない子どもは「ダメな子」と言われるのだろう。その子に友だちがいるかいないか、親や教員はどうやって理解するのだろう。とても不思議だ。 ※Fonte2006年9月15日号掲載