
――発達障害をとりまく日本の状況をどう見てらっしゃいますか?
日本では、あっという間に、「学習障害」や「注意欠陥多動性障害」などの発達障害の診断が根拠もなく広がった、と感じています。いよいよ、日本でも子どもを「精神病」や「精神障害」と判定し、多くの子どもに向精神薬を投与する動きが本格化してきたと痛感しました。
この15年、欧米で発達障害の診断とその投薬治療に関し、その被害や危険性が政府機関や報道によって発表されているにもかかわらず、その危険性が十分伝えられなかったのです。
欧米では、精神科医が作成したチェックリストによって、発達障害と診断される子どもが急激に増え、向精神薬を投与される子どもも急増しました。そして、死亡したり、自殺したり、暴力事件を起こしたりする事例が次々摘発され、ついには米国大統領もこのような子どもたちに対する向精神薬の強制投与を禁止するようになったんですよ。
しかし、日本ではこのような検証もなく、一部の精神科医と心理学者によって主導される研究会報告や検討会報告などが利用され、そして周囲に理解されず、不安を抱えていた親たちの気持ちを前面に出し、根拠ない診断の問題や薬物の危険性が無視され、発達障害児を診断、投薬する動きが急速に整備されました。その象徴が、十分な審議もなく、わずか10日あまりで成立した「発達障害者支援法」になります。
昔は「学校恐怖症」や「不登校」が精神障害とされたように、現在ではさらに底辺を広げ、「勉強のできない子」や「落ち着かない子」が精神障害にされる状況になってしまったということ。
しかし、発達障害については、原因がよくわかっていないんですね。文部科学省が昨年発表した「LD、ADHD、高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン」のなかでは「中枢神経系に何らかの機能不全があると推定されているが、原因は完全に解明されているわけではなく、医学的に根本的な治療をする方法もないのが現状」と述べています。しかし、2003年発表の「ADHD及び高機能自閉症の定義と判断基準」では、「投薬(中枢刺激剤等)の効果が認められる場合があることから、医療との連携が重要」と書いていたんです。1年で、「根本治療はない」と訂正したことになります。
発達障害者支援法は、LDやADHD、高機能自閉症が、いわば制度の谷間にある状態のなかで、それを障害として認定し、支援していこうというものでした。しかし、この法律を策定するにあたって、薬物の被害については、誰も何も言いませんでした。法案をつくった国会関係者でさえ、薬害の問題を、ほとんど知らなかったんです。
◎適応外処方のリタリン
――薬物投与の流れは強まっているのですか?
厚生労働省は、子どもたちに多く投与されている薬物について、研究を始めました。この調査によると、リタリン(塩酸メチルフェニデート)の適応外処方の使用例は、いずれもADHDでした。リタリンは、本来、ADHDには適応していなんです。睡眠障害、重度のうつ病にしか使ってはいけない薬です。ほかにも、子どもへの安全が確立されていないため、原則禁忌として6歳未満の幼児には投与してはいけないことになっています。ADHDの患者にリタリンを処方するのは、適応外処方なんです。にもかかわらず、国公立の病院でさえ処方されている。
リタリンの説明書には、副作用として「注意集中困難」「神経過敏」などが書かれています。また、「痙攣」や「不安」「焦燥」「幻覚」「攻撃的」などもあります。
しかも、リタリンは、覚醒剤として使用されている実態があるほど、依存性があります。そのために自殺している人もいるんです。なかでも危険なのが、「離脱症状」で、服薬を突然やめたときにバックフラッシュのような症状が出る。そういう場合、本人が自分を精神病だと思いこんでしまい、薬の副作用ゆえに、入院しないといけないと思ってしまう例もあります。
いま、注意欠陥多動性障害の治療薬を2006年度までには認可・販売する方向で、治験が進められています。これが販売されれば、またたく間に広がっていくでしょう。日本では慣習のちがいから、欧米よりは薬に対する抵抗も強いと思いますが、それでも、薬に対する価値観の変化は、この5年ほどで、大きく変わっています。抗うつ剤の消費は5~6倍に増え、今や600億円市場です。
発達障害者支援法の施行後、関連学会や医師など、目の色が変わったように、自閉症、LD、ADHDは脳機能障害だと宣伝し始めました。今や、子どもが、薬を摂らずに人生を過ごすためには、1歳半検診、3歳半検診、就学時前検診を生き延びて、チェック項目に当てはまらない人間になるしかないんです。これは恐ろしいことです。親は、薬で脳の機能障害が治ると思ったら、飛びつくかもしれません。しかし、それは根本的解決になりません。薬物によって子どもの症状を抑えておくことができるかもしれませんが、その副作用で子どもがどうなるかは専門家もわかっていないのですよ。
――実際には、どうしていけばよいと?
実際問題としては、発達障害支援法をより安全に施行できるようにしなければいけません。発達障害で子育てに困っている親御さんが、やっと理解されるようになったことは、最初の支援になると思います。
まずは、実際に病棟に入った子どもの生の声を聞くべきだと思いますね。発達障害者支援法の策定にあたっては、誰も当事者の声を聞いていないんです。
学習障害というなら、その子が勉強ができる方法を見つけだせばいいじゃないですか。好奇心旺盛でいろんなことがしたいのは、けっこうなことじゃないですか。子どもが騒ぐなんて当たり前じゃないですか。それは本当に「障害」にすることなんでしょうか? もちろん、いろんなケースがあると思います。もし、本当に脳の機能障害ならば、その治療は、脳外科や脳神経外科の仕事です。根拠のない精神科の仕事ではありません。
◎薬物投与の規制法令を
――今後の活動は、どのようなことを?
まず、薬物の強制投与はしないという政令が必要です。子どもが死んだり、自殺したりする可能性のある薬物なのですから、その危険性が十分、教育者や専門家に教育され、安易に診断したり、勧めたりする教師や医師に対する罰則が必要です。米国では、刑事罰さえ規定した法律もあります。
つまり、弱い立場の子どもと親を保護するための法令が必要ということです。数年後には、ADHDの治療薬が売り出される予定なんです。その前に支援法自体の見直しも必要です。それから、情報を市民が広く知ることが必要です。たとえば、医薬添付書には副作用のことが書いてありますが、書いてあることが難しいから一般には普及していません。しかし、情報はちゃんと出ているわけですから、その説明書をみて、親や教師が、薬について判断し、拒否することができるように、市民に対する啓蒙活動を広げていきたいですね。
私たちは、子どもが安全に医療を受けられる状況、環境、権利をつくっていかないといけない。いかに被害を防止できるか。海外でも、子どもが安全に医療を受けられる権利を、法律で定める動きがあります。
たとえば、被害者が医師の責任を裁判で問う場合は、それを援助する仕組みが必要です。子どもが殺されたのに、病院を相手どった裁判では、警察が5年も起訴を待たなければいけなかったりするんです。訴えたほうが事実を証明しなければならず、訴えられたほうは否定すればいいだけですからね。金額も莫大になりますから、被害者も、裁判となると二の足を踏む。
医師の責任、会社の製造責任を明確にする必要があります。処方する責任をしっかりしていかないと、薬害被害は絶対に止まりません。児童虐待防止のなかにも、子どもを薬から守る制度が必要です。
被害者の人は、本当の真実が知りたいと言います。それは、これ以上被害を広げたくないということなんですね。そういう人が一人でも多く集まって、声を上げていけるように、展示会やシンポジウムなども開いていきたいです。そして国会議員の方々とも協力していきたい。
今の社会の流れでは、個人がどんどん小さくなっています。動作・行動まで規制されていく。大きな政府が小さな個人を統制する傾向にあります。そういう流れのなかに、発達障害もあると思います。だから、子どもを、個人を、守っていかなければいけないですね。
――ありがとうございました。(聞き手・信田風馬)
※2005年7月15日、8月1日 Fonte掲載


