犯罪、とりわけ重大な事件ほど、人々はなぜそのような事件が起こったのか真実を知りたいと考える。直接の被害者であれば、なおさら自分や家族がなぜ犯罪被害を受けたのか真実の解明を願うのは自然である。しかし、少年事件については、少年法が定める少年審判の非公開・非公表の原則が真実を知る壁になるという不満や批判がある。もちろん、非公開・非公表の原則は少年の成長、更生、社会復帰を保障すべき社会の責任として、少年のプライバシーを保護するのであって、真実を隠すためではない。
そもそも犯罪もひとつの社会的出来事であり歴史的事実としてさまざまな側面をもち、唯一絶対の真実として目に見えるものではないから、公開される刑事裁判であっても、人々がそのような「真実」を見ることができるわけでもない。

私が国選弁護人を担当した02年愛知県岡崎市で発生した当時高校3年生(17歳)による女子大生殺害事件は、3年後成人に達した犯人が逮捕され刑事裁判になったが(06年11月判決)、非行も問題行動もまったくなく、学校も皆勤のまじめでおとなしい少年の突然の凶行だった。警察等の捜査段階で作成された被告人の供述調書には、殺人の動機は大学進学をあきらめざるを得なくなったストレスの発散だと理路整然と書かれていた。しかし、実際は、彼は法廷でも弁護人の面接でも、動機や犯行当時の気持ちなどに関する質問には「はい」「いいえ」以外にほとんど言葉で表現することができなかった。

彼について犯罪心理鑑定を担当した鑑定人は、小学校5年生ころから中学、高校を経て現在に至るまで彼が学校でも家庭でもほとんど人と会話をせず、自己評価が極端に低く、強く感情を抑圧されており、言葉で自分の感情を表現することができず、面接でも彼自身で言葉を発するまで最大約40分間も待つことがあったことを証言した。供述調書に書かれた動機などは誘導尋問で取り調べた警察官ら自身の言葉に過ぎないことが明らかになったのである。

鑑定は、高校卒業に向けて自立しなければならないと焦り、「自分を変えるため」が殺人の動機と結論づけた。そして、彼が小学校5年ころから人と会話も交わさず殻に閉じこもり、「生きる価値がない」とまで自己否定をした原因が学校での陰湿ないじめであることを明らかにした。彼は一日も休むことなく通学した学校でいじめによって孤立し、抑圧された状態に気づかれず放置されていたのだ。

同様に、深刻な非行の背景には、少年が学校でのいじめや家庭での虐待などで深く傷ついていることが多くある。その育ちの過程を解明すると、不幸な事件を予防する鍵となる教訓を見出すことができるのではないか。その教訓を得ることが大切であり、そのために少年のプライバシー保護に配慮しつつ適切な方法による事例研究や検証は必要であろう。いま、奈良県の医師の家庭で起こった少年の放火殺人を題材にした本が問題になっているが、警察官などが少年を取り調べて作成した供述調書の内容を「少年の肉声」と称して引用したり、少年のプライバシーを暴露するのは自己満足に過ぎず、事件の「真実」でもない。(弁護士・本紙理事)

※2007年 Fonte掲載