4年ぐらい前だったと思うが、「ひきこもりについて」の小冊子に、息子のことを書かせてもらったことがある。

 当時はまだ家から一歩も出ないときだったが、家のなかで楽しく過ごしていると書いたように思う。本人が「俺って、ひきこもりなのか」なんて言ってたころだった。

 息子は、中1の秋からさみだれ登校で、2学期終わりには、すっかり行かなくなった。しばらくは、わが家も大混乱だったが、中2からは、とくに登校を促すこともなく、ときが過ぎ、中2の終わりごろから、自分でコンピューターのプログラミングに興味を持ち、本屋で山ほど専門書を買い込んできて(このときも、ひとりでは外に出られなかったが)独学で勉強して、簡単なプログラムをつくっては、楽しむようになった。ときどきは主人の仕事を手伝って、こづかいをもらったりもしていた。

 高校受験のときは、行きたいところがないからと進学せず、家にいることにした。パソコン、ゲーム、それに菓子づくりや、パンを焼いたり、学校から解放されて楽しく過ごしていた。

 高2年齢になり秋も深まったころ、「大検を受けようかな」と、突然言い出した。最初は、気まぐれで言っているかと思っていたら、うるさく言うので、本気なんだとわかった。とりあえず、どうしてよいか分からなかったので、大検予備校にはいったらということになったが、通学は無理だと言うので、通信制を利用することになった。しかし、ビデオとテキストの勉強は「つまんねー」ということで、結局インターネットで過去問をプリントアウトして、勉強していた。

 高3年齢にあたる夏に大検に合格したが、大学進学は決心がつかず、また家に居ると宣言。親も「そんなに外に出るのがいやなら、いまの世のなか、家に居てできる仕事もあるだろう。家のなかでできる商売をしてもいいじゃないか。そうだ。そうしよう」などと勝手に覚悟を決めていた。そうした生活が1年ほどすぎたある日、息子が専門学校に進学すると突然言い出し、体験入学、一般受験とあっというまに入学を決めてしまった。 通学時間は1時間以上、朝8時半に授業が始まるので、朝5時半には起きなくてはならない上、朝から夕方まで1日びっしりと授業が詰まっている。

 「はたして、通えるのだろうか。昼夜逆転の生活がなおるだろうか」という親の心配をよそに、入学後は楽しく通学し、無遅刻、無欠席。あれよというまに、秋には会社に就職も決まった。面接のとき、「君は変わった経歴だねぇ」と言われて「まあ、いろいろありまして」と答えたらしい。 ちなみに専門学校は製菓学校のパン科で、中堅のベーカリーの製造会社に就職が決まったのである。

 家を中心に過ごしていたころから、パンはずっとつくっていて、もっと専門的に勉強したくなったのと、このままでは自分はやばいぞと思ったのが、進学を決心したきっかけだと、息子は話す。パン屋は体力勝負だと、スポーツクラブにも通いだし、いまは自動車学校にも通っていて、あと少しで免許取得。

 この1年のめざましい変貌ぶりに、親は少々ふりまわされ気味だったが、いよいよ明日卒様式を迎える。

 エネルギーがいっぱい溜まっていたんだなと感じている。東京シューレの「親だけ懇談会」でエネルギーが溜まると勝手に動き出すと、たびたび聞いていたけど、まさにこれだなと実感している。ヨーロッパへの卒業旅行を計画していて、その後は会社の研修が控えている。しかし、疲れて動けなくなるのではと、もう心配しない。息子は一歩一歩着実に前に踏み出している。この3月でシューレの「親だけ懇親会」がなくなってしまうと聞いた。親の不安の受け皿がひとつなくなってしまうのは、本当に残念に思う。親が元気になることが、子どもを元気にする第一歩だと思うからである。また何かの機会に復活して欲しいと思う。(千葉県 中山温子)

※Fonte 2007年3月15日号掲載