子どもが無意識にまわりの人間の気を引こうと、過呼吸症候群(過換気症候群)の発作を起こすことがあります。また、ほかの家族との関係が悪化するケースもあります。この場合、まわりの大人はどう接したらよいでしょうか?
◎「拒否」は、身をもって表明している事態
ここ数年、青年たちのあいだで過呼吸発作に苦しんでいるという訴えによく出会ってきました。 過呼吸発作とは、深い呼吸を非常に速くくり返すことによって血中から二酸化炭素が失われ、そのために一連の生理的変化が起こって、結果として筋肉の興奮、けいれんなどが発生したりするものです。なぜ過呼吸が生起するのかという原因については、疲労などの身体的要因や、不安、緊張、立腹など精神的要因が重なって起こると説明されます。私の経験においても、背景には解決されない深い悩みや葛藤、対人関係上の苦しみなどが確認され、そういった心理的問題が介在した身体化症状であるということがわかります。また過呼吸同様、青年たちのあいだでよく見られるものにパニック障害というものがあります。客観的に危険が存在していないにもかかわらず、突然心悸亢進(激しい動悸)、頻脈、胸痛などが起こり、その結果、二次的に死への恐怖を伴ってまったく自制心を失ってしまう状態に陥るものです。過呼吸、パニック障害は病態としてはちがうものですが、ともに反復性があるため日常生活においていつも不安感に支配されてしまうことになり、結局、悪循環を生んでしまいます。ただ、いずれの発作においても死にいたることはありません。
さて、質問にある周囲の者の気づかいとしては、この病態に対する充分な理解が必要です。健康な人からみると本人のぜい弱性に原因があるのではないかと考えて、「気持ちのもちようだ」とか「もっと気持ちを引き締めて」だとか、叱咤してしまうことになりやすいものですが、それは誤解です。大切なことは、発作によって死にいたることはないと言われても本人にとってはやはり恐怖であること、また発作そのものはコントロールできるものではなく大変つらいものであること、そしていつまた発作が起こるかわからないという不安を常に抱えて生活せざるを得ず、そのために日常これまで円滑にできていたことであってもできなくなってしまうことが多くなることなどなど、充分わかってサポートすることだと思います。仮にふだんは元気そうに見えていても、やはり発作を起こすには起こすだけの理由があるのであり、精神的には消耗状態にあるのだと心得るべきです。
青年たちに起こる多彩な症状化現象は現代社会の狭小化した価値観によって多様な生きざまを分断し続ける構造に対する「拒否」を、身をもって表明している事態なのではないかとも読み替えることができるのではないでしょうか――。(宇部フロンティア大学 臨床心理士 西村秀明)
※Fonte 2006年5月15日号掲載


