前回に引き続き、上野千鶴子さんへのインタビューを掲載する。今回は、今後の家計や家族のあり方、若い世代の仕事へのリアリティなどについて語っていただいている。

マルチプルインカムの時代へ

――これからの時代については、どのように?
 考えてみたら、1本しか大黒柱がないということは、リスクが大きいわけで、オヤジが倒れたら、その影響はものすごく大きい。
 非正規雇用で、フレックスに働く人たちは、仕事と生活のバランスを自分で選択している人たちと言えます。こういう人たちは、もはやダブルインカムでさえなく、マルチプルインカムの持ち主です。つまり、1人に複数の収入源がある。一つひとつは、自分の家計を支えるには充分ではないかもしれません。しかし、かき集めれば、なんとかなる。小銭をかき集める暮らし方です(笑)。
 そういうことで家族が維持できるのかと思う人がいるかもしれませんが、1人で暮らすよりも、マルチプルインカムを2人、3人で持ち寄るほうがプラスアルファができるわけです。いわば“持ち寄り家計”です。
 ですから、家族は今よりも親密になる。今までは、家族が解散しないのは、「家族が明日から路頭に迷ってしまうから」ということだった。そういう消極的な理由で結びついているよりも、積極的な理由で結びついているほうがいいでしょう? 家族の凝集力は低くならないが、パートナーを変える自由が女にも男にもできる。ステキじゃない(笑)。

なぜ危機感がないのか

――若い人にとって、労働にリアリティがなくなっているのではないかと思いますが?
 それには、いくつもの要因がからまっていると思います。
 私が日本的現象だと思って不思議なのは、フリーターが増えていて、若年失業率が高まっているのに、当事者に危機感がないことです。自分が不当に扱われているにもかかわらず、仕事がないということに対する危機感がない。
 それを支えているのは親でしょう? 親に対する依存があるために、“パラサイトシングル”でいられる。親のほうも、子どもが離れていってほしくないために、それを認める。おたがいにもたれあって、自立をしようとしない、あるいは子どもを自立させようとしない共依存状態です。
 いまの状況は、外国だったら暴動が起きていてもおかしくないような事態です。フランスの経済危機では、学生デモが起きました。
 いままでの日本の家族には、パラサイトを支えるだけの親のスネがありました。しかし、このスネは早晩なくなります。
 それから、仕事のリアリティを持てない背景には、子どものときに、仕事への接触がないことが大きいと思います。これは、学校が本当に悪いと思いますね。アルバイト禁止なんていう、とんでもないことを、なんでするのか。子どもたちを学校という管理社会のなかに囲いこんで、子どもたちから社会経験を奪ってきたわけです。

人生は時間割ではない

 私はいつも、「人間の人生は時間割じゃないでしょ?」と言っています。日本では、人生が時間割になってしまっている。たとえば受験にしても、育児にしても、その「時間」は、そのことに専念しないといけない。なぜ専念しないといけないの? 人間なんて多様性を持った生き物でしょう。遊びも暮らしも、仕事も、いろいろあって当然。バランスが変わって、重心が移ることはあるけど、専念する必要はない。
 学校は、教師が管理しやすいように、外から比較・評価されないようにできているシステムです。
 いまの大学入試にしたって、ストレートに学校を通ってきた現役に有利で、いったん社会に出て外での経験を持った人がお金をためてから入るようなことはしにくい。企業も、出たり入ったりが難しい。日本型雇用では、中途採用は不利になるようにできています。「時間割」どおりにはいかない人にとって、日本は構造的に不利になるようにできているんですね。

性的アパルトヘイト

 男がシングルインカムで働くということは、女が家庭や私的な世界に閉じこめられることでもあり、日本では、男女で公的な世界と私的な世界がハッキリと分かれています。これを“性的アパルトヘイト”とも言います。
 そして、男は、女の領域=家庭に戻ってくると、ただの自分勝手でくたびれた“ぼろぞうきん”状態です。だから、子どもは、家庭の中でも家庭の外でも、働く大人の姿を見ていないのです。

――親の世代も、ある時代の生き方・働き方をしているということですね
 そうですね。日本の近代100年間は激動期で、いまの親世代だって、自分の親と同じ生き方をしている人なんていないでしょう。それなのに、なんで自分の子どもには同じような生き方を求めるのでしょう? おかしいと思いませんか? 自分たちだって、親とちがう生き方をしてきたからこそ、生き延びてきたんでしょう。だから、いまの親世代にも、自分たちの時代と状況がちがうことを自覚してほしいものだと思います。
(つづく)

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総務省「労働力調査報告」から

労働省(当時)「労働白書」より

(うえの・ちづこ) 東京大学大学院教授。専門は女性学、ジェンダー研究で、労働や家族についても社会的発言を続けている。1994年、『近代家族の成立と終焉』(岩波書店)でサントリー学芸賞を受賞。著書に『女の子に贈るなりたい自分になれる本』(学陽書房)『ナショナリズムとジェンダー』(青土社)、『発情装置』(筑摩書房)、『上野千鶴子が文学を社会学する』(朝日新聞社)など多数。

※2003年3月15日 不登校新聞掲載