最新号トピックス

2010.03.29

庵野秀明さんインタビュー(後)

庵野秀明さん ――アニメをつくる魅力とはなんですか?  自分だけがどんなにがんばっても、100点以上のものは出てこないけど、アニメや実写映画は集団作業で、ほかのスタッフの人たちとミックスされたときに一種奇跡のようなことが起きることがある。そういう時には200点にも300点にもなる。それは意識してつくれるものではなくて、映画の神様が降りてきてくれるようなそういう瞬間がある。自分では思いつかないようなところへ持っていってくれる。だから、アニメは面白い。それが現場の持つ「場の力」だと思うし、当然、枠にはめていたら、出てこない。  アニメをつくるとき、作品に自分が近すぎると頭がおかしいような状態になる。だから、どこか醒めていないと僕はつくれない。創作活動でよく言われるのが自分癒し。たとえば、絵を描くことによって、自分のおかしくなりそうな部分を押さえているようなパターンもある。村上龍さんは「表現とは自分のなかの穴を埋める作業だ」と言っている。僕も自分のなかに穴が空いていて、ものをつくっていないとその穴が埋まらないですね。 ――学校に行かないことについてどう考えられていますか?  日本の教育システムも、教科書も、現場の先生も、文部科学省も問題だらけだと思う。たとえば学校のテストでも減点式テストだからミスをおかさない人間が優遇される。僕のように壁にぶつからないと次のところへ行けない、次のものをつくれないという人間に合った教育が日本にはまだない。採点システムが一つしかないことにも無理がある。そこに肌が合わないなら別に行かなくてもいいと思う。人間は本当にイヤなことからは逃げたほうがいい。学校にそれほど大事なものがあるかと言えば、僕の場合は友だちしかいなかった。学校でも会社でも、どうしても日本では閉鎖的な社会をつくってしまう。そういうところから逃げる権利はあると思う。本当にイヤなら逃げたほうがいい。逃げるというよりは戦略的撤退。逃亡よりは転身。自分がガマンができるところへ行くほうがいいと思います。 ――自分らしく生きることについてどう思われますか?  僕はたまたまこういう仕事をしていて、わがままが通る。でも、わがままを聞いてくれる人や環境にあるからこそ、わがままが言える。聞いてくれる人がいるからこそ、自分らしくみたいな雰囲気がだせると思う。ただ、最低限守らなければならないのは自分のモラルだと思っている。いわゆる映倫などで話される倫理的なモラルとは違うけれど、自分のなかでこれは見せたくないから、ダメなんだ、と思っていることは大切にしている。    自分らしく生きることにもつながってくると思うけど、迷惑をかけるようなエゴでなければ、一度きりの人生だし、自分の好きなことをやったほうがいい。このまえ読んだマンガで「生まれてくるのは宿命で、生きていくのは運命だから、宿命は変えられないけれど、運命は変えられる」と書いてあって、なるほどなと思った。生まれてから死ぬまでのあいだの部分はやはり自由。極論を言えば、自分で自分の人生に幕を下ろすこともできる。そこまで含めて自由なのだと思う。自分らしく生きるというのは今の日本では大変かもしれないけど、まったく不可能な話じゃないと思っています。やれることはやっといたほうがいいと思いますね。 ――ありがとうございました。(聞き手・石井志昂、白石有希、宮澤宏充、森安範) 庵野秀明(あんのひであき)1960年山口県生まれ。アニメーション監督。 代表作、『トップをねらえ!』『ふしぎの海のナディア』『新世紀エヴァンゲリオン』など。 2001年8月1日 不登校新聞掲載