ダグラス・ラミスさん

 今回は、ダグラス・ラミスさん講演「国家の『魔法』と戦争」(主催・うちなんちゅの怒りとともに! 三多摩市民の会)の抄録と、ダグラスさんへのインタビューを掲載する。講演は、帝国化するアメリカ政府の現在についてがテーマだった。インタビューでは、資本主義経済のこと、南北問題のこと、不登校のこと、などについてうかがった。グローバリゼーション、「経済発展」の拡大が世界を破壊している現実を、ダグラスさんは鋭く語ってくださった。

 今日はブッシュ政権になってから、アメリカがどう変わったのかについて話したいと思います。
 4月16日、沖縄で開かれたあるシンポジウムの席上で、沼田貞昭沖縄担当大使は、イラク戦争について「イラクは大量破壊兵器を持っていたのだから、戦争は仕方がなかった」と発言しました。私もシンポの発言者のひとりでしたが、ビックリしてしまいました。現在、大量破壊兵器がイラクに存在しなかったことも、イラクがアフリカからウランを買い付けたとの情報がウソであったことも、明らかになっています。侵略の理由となった二つの根拠が崩れているのです。
 また、仲宗根正和沖縄市長は、困った顔をしながら「基地は戦争の抑止に使うべきであって、戦争を起こすために使うべきではない」と発言しました。しかし、悲しいことに、アメリカ政府はもう基地を「抑止力」として考えていません。以前までの「抑止」政策は変わってしまったのです。

◎ネオコンの世界戦略

 アメリカ政府が変わった背景には、ブッシュ政権の中軸を担うネオコンの存在があります。1997年、ネオコンは「新アメリカ世紀プロジェクト」を創設。冷戦終了後の世界情勢について、アメリカが世界的な支配力を積極的に獲得するべきだと主張しました。
 彼らが2000年に出した白書では、アメリカが唯一の超大国となった状況は継続されなければならず、そのためにアメリカは世界警察にならなくてはならない、と主張されています。だから戦争も、海外での治安維持活動も必要である、と。さらには、アメリカ政府のジャマになる政権については、軍事力をもって政権交代させるべきであること、サダム・フセインと関係なく中東にアメリカ軍基地を置くべきこと、朝鮮半島においても、対中国を考え軍事力を維持すること、など、非常に恐ろしいことが語られています。
 白書の最後には、米軍の拡張・再構築が必要だが、すぐにはできない。しかし、真珠湾攻撃のような衝撃的な事件があれば、早期に可能になるだろう、と書かれています。これは9・11事件以前に出されたものです。あの事件については陰謀説も出されていますが、その後を見ると、ネオコンの意図どおりに事態が動いてきていると言えます。

◎アメリカ政府は帝国そのもの

 20~30年前から、私たちはアメリカ政府を「帝国主義」だと批判してきました。政府は経済力によって、他国を植民地化している、と。それに対し政府は「帝国主義」を否定していました。ところが、現在のアメリカの姿勢は変わってきています。
 アメリカの模範はローマ帝国であり、経済力だけでなく軍事力をも使って、事実上、諸外国を支配しようとしているのです。先ほどの白書には「パクスアメリカーナ」という言葉が出てきます。
 もちろん、国連創設以後の国際法において、他国を侵略する帝国の存在は許されていません。だから、アメリカ政府は国際法を抜本的に変えようとしているのです。国際法は多くの先例・判例を積み重ねて築き上げたものです。アメリカが国際的な行動を起こして、誰からも責任を追及されなければ、許される行為になってしまいます。たとえばテロの報復として行なわれたアフガン戦争は、アメリカが一方的に起こした侵略戦争です。タリバン政権はアメリカ政府への侵略計画など持っていませんでした。イラク戦争も同じです。これらの事実はアメリカの先制攻撃による侵略戦争を国際社会のなかで黙認させたことになります。
 また、アメリカ政府は自国領土以外でテロの容疑者を逮捕しています。ほかの国は、そんなことはできません。当然のことですが、自国の刑法は自国でしか通用しません。いま、これらの容疑者は人権を与えられないまま、キューバのアメリカ軍基地で裁かれようとしています。CIAはイエメンに潜入し、アルカイダの容疑者をミサイルで暗殺したと言います。アメリカは他国においても、逮捕も暗殺も政権交代もできる。これは帝国主義ではなく、帝国そのものです。
 ただ、イラク戦争後、アメリカ政府の意図は崩れはじめています。アメリカ国民もアメリカ兵も、自分たちの戦争をだんだんと信じられなくなってきている。
 私は「パクスアメリカーナ」が、あらゆる帝国のなかで一番はやく歴史を終えるのではないかと、希望を持っています。

――まず最初に、グローバリズムについてのお考えをお聞かせください
 グローバリズムというのは、つまりは資本主義経済を世界規模に広げることです。資本主義経済は19世紀の植民地時代から拡大を続け、多くの自然や文化を破壊してきました。動植物の種は毎日のように絶滅しています。また、現在、世界には約5100もの言語がありますが、2世代先には100ぐらいの言語しか残っていないと言われています。自然や文化がすさまじいスピードで消滅しているのです。
 しかし、自然や文化は本来、多様になっていくものです。それが、いま、資本主義経済のシステムに呑み込まれていくなかで、進化の過程の逆行にも似たグロテスクな消滅をおこしているのです。
 また、経済発展が貧富の差をなくすのだという誤解がありますが、実際には、「発展」こそが貧困を再生産しているのです。西洋諸国は南の国を植民地にし、力ずくで資源を搾取してきました。そして現在は、かつての植民地を「発展途上国」と呼び、自然を開発の対象とし、資源を奪っているのです。
 南の国の人々は、望んでもいない「自由貿易」によって、資源を北の国に奪われています。北の国が裕福になるために南の国は貧困になり、飢餓も生まれています。資本主義経済は、搾取と暴力に基づいた経済システムなのです。

――南北格差はどうしたらなくせると?
 いまの社会は、機械や建物ばかりをつくり、生命を壊し続けています。じつに暴力的な社会です。しかし、そのことが見えにくい仕組みになっている。
 私は、この社会の状況を理解することで、現在の常識にとらわれない、自由な発想が生まれてくると思います。そのためには、仕事やお金に対する態度を変えてみたり、消費文化から離れてみたり、いろいろな方法があると思います。
 そのうえで、北と南のあいだにある溝を跳び越えて人間関係をつくっていくことができるのではないでしょうか。若い人たちはボランティアなどに参加して、そうした関係を持つべきです。
 また、現在の日本について言えば、多くの日本人は北朝鮮に対して、ゆがんだ恐怖や畏怖をいだいています。それを積極的に越えていくことが必要だと思います。

――不登校について一言
 私は、義務教育制度は、基本的によいものだと思います。民主化の目的もあったはずですし、ある段階においては、すべての子どもが学校教育下におかれることも必要だったのだと思います。知識の格差を学校が埋めた面もあります。
 しかし、たとえば私の父は、12歳で小学校に入学しているんですね。私は父から学校で苦労した話を聞いたことがありません。7歳の子どもが1年間かけて学ぶことは、12歳なら1週間ほどで覚えてしまうでしょう。では、学校は何を子どもたちに教えているのか。それは、7歳の子どもがイスに1時間座っていることであったり、となりの子どもと話さないことです。つまり、軍隊教育のようなしつけなのです。
 私は学校に行かない選択肢を選ぶ子どもたちを応援しています。

――ありがとうございました。(聞き手・石井志昂)

2003年8月1日 不登校新聞掲載