アメリカで犯罪者の更正プログラムとして大きな成果を上げている「アミティ」。そんなアミティを題材とした映画『Lifers ライファーズ~終身刑を超えて~』が都内で公開されている。今回は監督である坂上香さんに、アミティとの出会い、この映画への思いについてお話しいただいた。

――映像に興味を持たれたきっかけは?

 高校を卒業後、アメリカの大学と大学院に行きました。在学中、ラテンアメリカを放浪したんですが、あるとき、デモが自然発生的に広がるのを目の当たりにしたんです。すごく感動したんですが、緊張してカメラを取り出せなかった。これを動画に撮影して日本に伝えられたらどんなにすごいだろうと思って、その後、アメリカの映像学校に1年間通いました。映像の仕事に興味をもったのは、そのときです。

 日本に帰ってきてからは、飛び込みでドキュメンタリージャパンという会社に応募しました。採用は無理だと言われたんですが、あるプロデューサーが、たまたまアシスタントを必要としていて、運よく入ることができました。その会社で、NHKのドキュメンタリーの仕事なんかをやっていました。

 しかし、私が中心になっていた「戦争をどう裁くか」というシリーズで、NHKに内容を改ざんされてしまう事件があったんです。裁判にもなりましたが、NHKという巨大組織を相手に、番組関係者は誰も味方してくれませんでした。それで、闘い疲れてボロボロになって、会社は辞めてしまいました。

 ちょうどそのころに子どもができたので、映像とは距離を置こうと思えたんです。ところが、今度は夫がガンになっちゃって……私も流産しそうになるし、このままだと私はどうなるんだろうってすごく落ち込みました。

 そんな私を見ていた友人たちが、突然「映画を撮りたいって言ってたでしょ?」と言ってきたんです。「夫はガンだし、私は妊娠中だし、お金もないよ」って私が言うと、「じゃあお金を集めようよ」って。最初は半信半疑でしたが、ともかく制作にとりかかりました。

――これまで手がけた作品の多くは暴力や犯罪をテーマにしていますが?

 最初から、そうしたテーマを扱おうと思っていたわけではないんです。最初はラテンアメリカの社会問題に関するドキュメンタリーを撮りたかったんですが、日本のテレビでラテンアメリカが登場するのは、紀行モノばかり。

 私は、タレントを連れて南米を旅するような仕事は、絶対にイヤという思いがありました。それで、がむしゃらに企画を考えました。そのなかで通った企画が、HIVに感染した子どもたちの話でした。HIVの問題も、社会の偏見とか、社会的な暴力を扱っている。しかも、ただ偏見や差別が悪いと指摘するだけではなく、それに対する闘い方を、取材対象者が提示してくれたんです。

◎アミティとの出会い

 その後、アリス・ミラー(スイスの精神分析医)のドキュメンタリーを撮ったんですが、彼女の紹介で、アミティ(※注)の活動に出会ったんです。

――アミティの活動に出会ったときの感想は?

 犯罪者の更生施設だと聞いていたので、灰色のコンクリートの建物を想像していたんですが、実際は、リゾート地みたいでフェンスもないし、スタッフと入所者の区別がつかないような同じ服を着てるし、「なんだここは?」という感じでした。みんなやさしくて、でも、スタッフが紹介してくれると、すごい犯罪歴や、虐待歴があって、圧倒されてしまいました。

 アミティは、最悪の犯罪をしてしまった人でもやり直せるんだっていうことを教えてくれました。日本の報道では、ほとんどが加害者を責めるだけで終わっちゃっていて、それに代わるモデルがあまり提示されていない。だから、こうしたオルタナティブな活動を紹介することが私の仕事かな、と思ったんです。

――アミティのプログラムへの参加は、入所者が決めるんですか?

 刑務所によります。映画の舞台であるドノバン刑務所では、希望者のみです。ほかの4つの刑務所では、プログラムを受けることが強制されています。昔は、強制では効果がないと言われていましたが、いままでの例を見るとあまり関係がない。みんな最初から100%やりたくて始めるわけじゃないですからね。最初は暇つぶしのような軽い気持ちで始めるんですが、大抵は途中でやめたくなったり、抵抗したりする。しかし、アミティのプログラムではその気持ちを抑圧しないんです。そのなかで、本当はプログラムじゃなくて、ちがうものに抵抗していることに気づくんです。自分の気持ちのなかにある語りたくない何かに。

――アミティはアメリカで広がっていまですか?

 カリフォルニア州、アリゾナ州、ニューメキシコ州の3州にしか広がってません。行政関係者は、アミティの活動を評価しています。一般的に再犯率は75%ですが、アミティのプログラムを受けた受刑者は26%です。ただ、一般の人にはあまり知られていないですね。

――出所後、社会に受けいれられない現実もあるのでは?

 そうですね。アメリカを10年取材して思うのは、アメリカ人にとって犯罪はとても近いということです。国内に受刑者が300万人近くいる。かならずと言えるほど、自分の家族や友だちに受刑者や加害者がいる状態です。あるとき、受刑者の家族へのインタビューを撮影していたら、近所のおばさんに「あんただって家族に一人や二人犯罪者いるでしょうが」って言われました(笑)。とくに貧しい地域はそういうことが多いです。

◎当事者以外だからできる事

――日本の厳罰化の流れを、どう見ていますか?

 一般的に、社会の目が厳しくなっていると感じます。しかし、罰すれば問題が解決するということではなく、少年院や刑務所で何をするかがすごく重要です。日本では、少年はまだ変わる可能性があると思われているけれど、大人に関しては、議論の余地なしですよね。しかしアミティを見ていると、大人でも十分変われるんです。むしろ、大人になったからこそ気づける部分もある。

 もちろん被害者へのケアは十分でないし、司法制度のなかで被害者の存在が無視されていることは感じます。でも、厳罰化することで、被害者の権利が守られるのかと言えば、そうではない。厳しく罰しても、加害者が変わることにはつながらないです。

 しかし、犯罪の被害者に、加害者のことを理解し、更生を望みなさいというのは難しいと思いますし、それを社会が要求してはいけないと思います。

 だから、加害者でも被害者でもない、一般の市民たちが、距離を持って客観的に考えていく必要があるんです。よく被害者になり代わって「被害者の気持ちを」なんて言いますが、そんな必要はないんです。

 加害者が変わることが、結局は社会にいい結果をもたらすかもしれないことを、被害者のなかでも理解してくれる人がいます。だから、社会が冷静になる必要があると思います。

――映画を撮り終えた今の気持ちは?

 本当に何とも言えないです。絶対不可能だと思えたことを実現できたわけですから。この映画は、私にとってみれば二人目の子どもです(笑)。ちゃんと育んでいきたいですね。一人でも多くの人に見てもらいたいです。

――ありがとうございました。(聞き手・信田風馬)

注…アミティは犯罪者や依存症者などの社会復帰を支援する非営利団体

(さかがみ・かおり)
映像ジャーナリスト。1965年大阪生まれ。1992年テレビ番組制作会社に入社。多くのドキュメンタリー作品を手がける。2001年よりフリー。著作は『癒しと和解への旅』(岩波書店)など。

※2004年11月1日 Fonte掲載