「ひと」のコーナーでは、子ども・若者に取材し、感じてきたこと、取り組みを聞いていければ、と思っている。今回、取材に応じてもらったのは風さん(ペンネーム)。現在26歳で高校卒業後から5年間ひきこもり、現在はミニコミ誌の編集をしている。取材は、ひきこもっていたころのことを中心にお聞きしました。

――ひきこもるまでの経緯を教えてください。

 とくにきっかけはないんですけど、高校を卒業してから、ひきこもりをしてました。強いて言うなら勉強はひとつのきっかけかもしれない。まわりは勉強の出来次第で、自分の価値とか、クラスでの位置が決まると思っていた。オレはそういう感覚がなかったから、当惑したっていうかね。まわりの人間が認識している世界に自分が取り残されてしまっている感じがあった。そこまで、難しく考えていなかったけど、疎外感がありました。

 だから、ひきこもったのは、きっかけがどうのというより、本来備わっていた素質だったとしか言いようがないですね。

――ひきこもりをはじめてからの生活は?

 たまに図書館に行く以外は、部屋の真ん中で、ひたすらボーっとしていた。ただ毎日毎日、陽が昇って、落ちていく現実感のない日々だった。同じ年齢の奴だったら、学校に行ったり、働いたりしてるんだろうな、と思うと猛烈な焦りに見まわれる。これで人生が終わりだ、と思い詰めてたし、先の展望もなかった。同時に、焦りや不安が人ごとみたいにも感じられた。

 それから、部屋のなかのものが無くなっていった。勉強机とか、本棚とか、そういう家具を捨てて、最後は壁と畳だけみたいな部屋だった。ひきこもっているのに、部屋でのうのうといることがイヤだったんです。

 すごく後ろ向きな努力だし、そんなにイヤだったら、働けよ、と思うんだけど、そういう不安に耐えつつ、何もない部屋で、じっといることに、自己目的を見つけていたんでしょうね。

 断続的にアルバイトしたり、仕送りをもらってアパートで一人暮らししたりしましたが、23~24歳ぐらいまではそんな感じで過ごしていました。

◎不安が等身大に

――23~24歳になって、どんな変化がありましたか?

 外に出るようになったんだけど、これもきっかけはないんだよね。ただ、焦っている気持ちを等身大に受けとめられるようになったのかな。それまでは焦って、恐くなるばかりだった。逆に、これで全部がうまくいく、もう不安はないみたいな高揚感がくるときもあった。でも、それは長く続かず、揺り返しうつになったりもした。

 高揚感も焦りも過剰だったのが、このころには、ある程度落ち着いてきたんだと思う。

――ふり返ってみて、何が不安だったと思いますか?

 思いこみかもしれないけど、自分が世界に参加していくとっかかりが、すべて断たれたという実感があった。社会から閉め出されているという感じかな。
 考えてみればどうして働かなければいけないのか。とくに部屋から物がなくなっていく時期は、何も望んでいなかった。働くうえでの野心というか「いい車に乗って、いい服を着て、いい酒を飲む」みたいな情熱もない。ただ、起きて寝るだけの生活にどうして働くことが必要なのか、と。

――ひきこもるなかで感じたことは?

 ある意味で閉塞した生活だから、どこにも向かわずに、自足してしまっている感じはあった。ただ、このままではいたくない、という気持ちがあった。

◎自分にあるもの使いきりたい

 まだ、自分のなかにあるものを何も使っていないな、と。それで終わるのがイヤだし、自分のなかにあるものを全部使いきって、死にたい、と。輪廻転生という考えでは、生きているあいだに悟りを開けなかった人は、死んだあとも、また生まれて苦行をくり返す。感覚としてわかる話だなあ、と。信仰を持っているわけではないけど、いま死んでも、また生まれて同じことをくり返す気がするんです。

◎ムリに動いてもうまくいかない

 自分でも思い詰める性質だと思うけど、同時に楽観的で、なるようにしかならないとも思ってる。物事が動くときは、自分がどう考えているかなんて関係ない。考えているときに、ムリヤリ自分を鼓舞して、動かしても、うまくいかなくて苦しむ。それをけっこうくり返してきたんで、意味を考えて動くのは、うまくいかねえなあ、って。

――ひきこもりと言われることに違和感は?

 自分を説明する言葉として「ひきこもり」は、今も昔もあんまりなじめない。それに「ひきこもり」と名づけることで、抜け落ちてしまうことがあると思う。不安定で何も動きたくないという状態や不安であせったりすることは誰にでもあると思う。

 オレの場合、それが過剰だったかもしれないけど、自分を定めてくれる手近なものになびかなかった。そうやって自分と向き合ってこれたことは得難いものだ、と自負している。

 それが、ひきこもりと名づけた瞬間に、特殊な人間として切り離されて考えられてしまう。誰もが感じた違和感や疎外感、不安や焦りが何だったのかに目を向けなくなってしまうと思っています。

――ありがとうございました。 (聞き手・石井志昂)

※2004年7月1日 Fonte掲載掲載