「お金のためじゃなかった」中学生のとき、援助交際をしていた友だちが言った。「ほめられるのが嬉しい」と言う彼女は本当に嬉しそうに見えた。意味がわからなかった。それから、風俗とはなにか? 女とはなにか? を問うようになった。売春は私にとって、遠そうで、じつは近い距離にある見逃せない社会問題なのだ。だがこの問題には、さまざまな議論があり、意見がある。だから「まずは当事者の視点に立った意見を聞くことから始めたい」と考え、今回はSWASH(※メモ参照)メンバーであり『風俗嬢意識調査』の共著者でもある要友紀子さんにお話をうかがった。(斉藤香名子・15歳)

――SWASHはどんな経緯から発足されたのでしょうか?

発足のきっかけになったのは、97年の台湾・台北市の公娼制度廃止反対運動(※メモ2参照)です。セックスワーカーが中心の激しい運動を見て、私たちは勇気をもらったんですね。日本のセックスワーカーは、ネットワークもなければ、組織的な支え合いもなく、情報もなく、摘発されるのを待つだけのような状況でした。反対運動を見て、私たちも社会や自分たちのコミュニティに対して「訴えていこう」という気運が高まり、99年にSWASHが発足しました。

――『風俗嬢意識調査~126人の職業意識~』(ポット出版)は興味深く読ませてもらいました。

ありがとうございます。たぶん、多くの人が意識調査を読んだら、イメージとはちがうセックスワーカー像が見えてくると思います。よく「風俗なんて、金のためにやってるんだろ」と言われますが、いちがいに「お金のためだけ」とは言えないことも調査で明らかになりました。「お金のために働いていたけど変わった」という人もいます。当たり前のことですが、セックスワーカーは人格を持った人間です。仕事について考えたり、悩んだりもします。でも、そういうことを想像すらせずに、かなりの人が雑誌やテレビを見て勝手なイメージを固めてしまう。たしかに相手のことを本気になって知ろうと思ったらエネルギーのいることです。ある程度、相手のイメージを固めてしまったほうが、付き合いやすいとは思います。しかし、誤ったイメージからセックスワーカーが職場や日常生活でいやな思いをしてることを知ってもらいたいと思っています。私自身も、調査のなかでいろいろなことがわかりました。

◎何を売ってると思いますか

企画段階で、最初に「あなたは、この仕事で何を売ってると思いますか?」という質問が浮かんだんです。私はセックスワークを肉体労働だと捉えていたので、同じような考えの人が多いだろう、と。ところが半分近くの人が「愛」「やすらぎ」「癒し」といった感情的なサービスをしているという答えが返ってきました。これはちょっと意外でしたね。セックスワークの見方が少し変わりました。

――調査に対する批判はありましたか?

突っ込んだ質問ができてないとか、意見が偏っているとか、いろいろ言われました。意識調査はすべて私がインタビューしたんですが、これだけの量があるとやっぱり大変なんですね。風俗店の片隅にちっちゃくなって何時間も待たされることも多かったし、半年間、毎日、インタビューばかりなので、根気がいりました。仕事の休憩時間を割いてもらって話を聞くので、10~15分程度の取材が精いっぱいです。まあ、文句があるなら、同じような調査をやってみたらええよって言いたいですね(笑)。

意識調査は企画者の価値観が結果に現れてしまうことがあります。私はセックスワークを一つのセクシャリティだと捉えています。同性愛であったり、異性愛であったりすることもセクシャリティです。誰もが自分のセクシャリティを否定されたくないと思っています。同じように「お金をくれたら誰でもするよ」と「愛し合ってないとできない」というセクシャリティ、価値観の差に優劣はつけられません。価値観自体に優劣がないと考えたら、セックスワークをする人だけが危険や暴力にさらされていい、と考えられないはずです。そうした考えが社会の尺度で測ったとき「偏っている」と思われるのは知っています。ただ、この意識調査が実態に基づいていることは確かです。

◎バラバラの当事者

――調査を企画された動機はなんですか?

私は96年ごろからセックスワークの非犯罪化運動に関わり、セックスワークの是非をめぐる多くの議論を聞いてきました。しかし、一番肝心のセックスワーカー自身がどう感じているのか、という意見が抜け落ちていると感じていました。どんな議論も当事者の意見から外れては意味がないと思うんです。

私自身も、いろんな当事者の意見を知りたいと思っていました。いまの状況では、セックスワークに対する差別や偏見もあるし、ほとんどの人が安心・安全とは言い難い状況で働いてます。こんなのは絶対におかしい。「本人たちもこれでええと思ってんのやろか」って不思議に思ってました。そんな思いから、内外タイムスに意識調査の企画を持ち込みました。

――こうした調査がなかったのが不思議ですね。

当事者がほかの当事者の意見にまで関心がないんでしょうね。こうした意識調査をするためには、当事者や当事者に近い存在の人が高いモチベーションで取り組まなければムリです。でも、そういう高いモチベーションを保つのが難しい。なぜなら、多くの当事者がこの仕事を何年も続けようと思っていなかったり、出版をしてまでこの問題に関わりたいと思えない状況だったりします。

セックスワーカーにかぎらず、多くの人が自分を評価する人にしか関心を持てない、という状況もあります。私の学生時代を考えても同じような状況でした。私は学校のなかに閉じこめられて競わされて「こんなんでええの?」って不満を感じていました。

◎「変わらない」とは思えない

まわりも同じように不満を抱えていても、何も言わずに受け入れてしまう。そんな不満を口にするより、いい学校に行くために、いい暮らしをするために、学校や先生にどう評価してもらえるか、を考えてしまうんです。まわりの人がどんな不満を持っていて、どう不条理を受けいれてるのか、そんなことを聞いても「何も変わらない」とあきらめてしまうんです。

でも、私は「変わらない」とは思えない。私はセックスワークのコミュニティで働く人が大好きです。だから、みんなの声を集めて「みんなも同じように考えてるよ」と伝えたいし、「一人じゃないよ」ということも知ってほしかったんです。

ただ、このデータも00年調査で、すこし古いデータになっているので、新しい現在のデータを見てみたいですね。でも、私はたくさんやったので、だれかに調査をしてほしいです(笑)。

――ありがとうございました。(聞き手・斉藤香名子、高橋典子、石井志昂)

※「SWASH」(Sex Work and Sexual Health)は1999年に設立。セックスワーカーが、安全に安心して働けるよう支援している。SWASHは、性風俗産業や売春などの性的なサービスを提供する仕事を「セックスワーク」と呼び、そこで働く人を「セックスワーカー」と呼んでいる。活動拠点は東京と大阪にあり、東京のスタッフメンバーは約10名。現・元セックスワーカーとサポーターが活動している。

活動内容は、当事者が集うカフェ「Fantasy Cafe!」開催、電話相談、資料収集、調査研究、英会話教室の実施、広報活動などがある。カフェ参加者が安心して話ができるよう「話し合った内容や参加者の情報は口外しない」「参加するためには、カフェ参加者やスタッフの紹介が必要」などのルールがある。

こうした活動は、民間企業や東京都などの行政機関からの助成金や委託費によって運営されている。

また、海外、とくにアジア諸国のセックスワークに関する団体との連携も深く、「APNSW」(Asia Pacific Network of Sex Worker)の一員として、国際会議への出席や情報交換なども積極的に行なっている。APNSWは、セックスワーカーに対する差別や偏見の撤廃、セックスワークの非犯罪化、セクシュアルヘルス、社会保障、労働環境の整備などを目指し、アジアレベルでの運動連携と発展を目指している。またAPNSWは7月1日、第7回アジア・太平洋国際エイズ会議の組織委員会として企画運営に関わっている。

※2 公娼制度廃止反対運動……97年台北市は公娼制度を廃止し、セックスワーカーの営業ライセンスを取り上げた。これに対し、公娼側は激しい反対運動を行なった。

(かなめ・ゆきこ)
1976年生。SWASHメンバー。主な著作は『売る売らないはワタシが決める』(共著、ポット出版、2000)など

※2005年7月1日 Fonte掲載