毎年7月7日金峯山寺蔵王堂で行なわれる蛙飛行事。

 昔むかし、一人のへそ曲がりの男が神様(蔵王権現・金峯山寺の本尊)の悪口を言ったところ、たちまちにその男は大鷲にさらわれ、断崖絶壁の上に置き去りにされてしまったそうだ。悪口を言っただけでこの仕打ち。それとも、よっぽどひどい悪口を言ったのか。ともかく悪口を言ったことを後悔し、通りすがりの山伏(僧)に泣きつくと、山伏は男をカエルの姿に変えてくれた。男はカエルとなって、山から降りられたのだが、今度は人間に戻ることができない。そこで、吉野山の高僧が蔵王権現の前に座らせて経文を唱え、人間に戻してあげた、という伝説に由来する行事だ。

 蛙飛行事の当日は、午後1時すぎ、着ぐるみ丸出しのカエルを乗せた御輿が竹林院前から出発。カエルは道行く人に手など振って、なんだかんだとっても愛想がよい。カエル御輿はそのあと山道を下り、ロープウェイ駅前で山伏の一行と合流し、今度は蔵王堂を目指し山道を登っていく。

◎あいつがやってくる!

 午後4時前、平日にもかかわらず、かなりの数の人が本堂周辺でカエルの到着を今か今かと待っている。そしてついにホラ貝を持った山伏に先導され、カエルを乗せた御輿が登場!「ワッショイ! ワッショイ!」と、これでもかと言うほど、上下する御輿の上で、振り落とされまいと必死にしがみつくカエル! カエルの下アゴが御輿の上下にあわせてバッコン、バッコン開いたり閉じたり大変なことになっている。しかし、そんなことはおかまいなしと、男たちは最後の気力をふりしぼるように御輿を上下させ大暴れ! カエルの下アゴも大暴れ! そして、やっと御輿から降ろされたカエルは担ぎ手の若者に背負われて、本堂のなかに姿を消す。カエル不在のあいだ、なにやらお経が読まれているが、正直、お経などどうでもいい! カエルを出せ、カエルを! 梅雨のじめじめとした熱気に当たりながら、待つこと30分。カエルがふたたび登場。ゴザのひかれた十字状のステージの端に座す。いよいよカエルが「飛び」を見せるのか!? しかし、観客が注目するなか、カエルは土下座のような姿勢のままズルズルと這って移動し始めたではないか。「え? これがカエル飛び?」。初めてこの祭りを見た人は、みなそう思っただろう。しかし、これが「蛙飛行事」のようだ。その後、3人のお坊さんに経を唱えてもらったカエルはやっと罪をゆるしてもらい、着ぐるみの頭を取って、無事、人間に戻れた。カエルのときは、あんなに愛想がよかったのに……。やはり、首から下がまだカエルだったのが恥ずかしかったのだろうか。(前田裕二)

※2005年8月1日 Fonte掲載