秘伝の意味は「とくに秘して特定の人以外には教えないこと」(大辞林より)。でも『月刊秘伝』は、毎月、惜しげもなく秘伝・極意を世に流布してくれる。創刊は1990年。季刊誌として産声をあげ、格闘技ブームが起きた1997年に月刊誌として成り上がってきた。
いま、世界的な格闘技は、オリンピック種目やプロスポーツとして確立している。その結果、練習して、試合に勝つことだけが、格闘技のあり方だと思われがちだ。けれども、試合とは関係なく、数多くの武道・武術は生まれていた。『秘伝』は毎月、さまざまな武術・武道にスポットをあて、体の鍛え方、技の紹介はもとより、精神性に踏み込んでいく。編集部によると「秘伝・極意を探ることは、たんなる技術の寄せ集めではなく、哲学に踏み込んで行かざるを得ない」と話す。
武道家は何十年も鍛錬を重ねる。しかし、ふと気づけば体は老いて、試合に出られない。疑問に思う「試合に勝てないなら、私の修行に意味はなかったのか?」。その疑問を出発点に「新しい武道の追求」がもうひとつのテーマである。
僕は取材にあたり、はじめて『月刊秘伝』最新号を読んでみた。これがおもしろい。まずは達人たちの逸話から紹介。
武道家・日野晃さんは、食事中、お弟子さんに「いつでもいいから箸を持ってふり上げるように」と言いはじめた。食事と会話は続けられるが、1分後、ある男性が箸を持つ手を静かに上げた。しかし「それは先生が彼の方向を向き、視線で刺したのとまったく同時だった」と。すごーい、まさに達人だ。
一方、忍者・初見良昭さんの座談会。初見さんはアフリカ旅行に行き、夕日を見ていた。初見さんは「ここは危ない」と言い出すが、ベテランの現地ガイドは「ここは大丈夫ですよ」と釘を刺した。ところが、2分後「マンモスみたいな巨大なサイが私たちめがけて突進してきた」らしい。まさに忍者パワー、常軌を逸している。
さらに、初見さんは座談会で「よかったら、インタビュー中にでも不意打ちを仕掛けてみたら」と言って、弟子を紹介する。「常在戦場」の心意気らしい。
読者の声を拾うと「合気柔術の記事、期待してます」「インドやインドネシアの武術を紹介してほしい」など、読者の熱心さがうかがえる。
編集部の方はどんな人たちなのだろうか? 一人の編集者にたずねた。「十人十色の仕事場です。私の場合は古武道をやっていて、好きでこの世界に入ったんです」と。
それでは、どんなところにやりがいを感じているのだろうか。「古武道の先生方にお会いするとリスペクトしますし、自分の稽古にフィードバックもできます。なにより、人生の基盤を武術が培っている生き方に勇気づけられるし、うれしいです」と語る。
たしかにプロスポーツに比べれば、ファンの数は少ないかもしれない。けれども、グツグツと煮え立つ『月刊秘伝』の情熱は永遠に続く気がする。僕にはそう感じられてならない。(石井志昂)
第3回雑誌一徹「月刊秘伝」
(09-11-02)

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